日銀や民間の意識調査では、暮らしは厳しくなっているか?

以上、厚生労働省と内閣府の調査結果を調べてみた。政府の調査は信用できないという向きもいるだろうから、最後に、日本銀行と2つの民間団体(大手広告代理店・博報堂と大学学術機関・JGSS研究センター)の調査結果を紹介しよう(図表3参照)。

暮らしは苦しくなっているか(日銀と民間団体の調査結果の推移)

日銀のアンケート調査の結果を見ると「ゆとりがなくなってきた」(青線)と感じている回答は2009年のピークからアベノミクス1年目の2013年まで一気に下落し、その後は、消費税引き上げの影響で上昇するなどしながら比較的低い水準で推移している。

博報堂の定点調査の結果を見ると「暮らし向きが苦しくなった」(黒線)という回答は、リーマンショック期にピークを記した後に、下がり続け、アベノミクス期にもそれが継続し、2018年に最低となっている。

JGSS調査という学術的な社会調査では、「家計状態が不満である」人(オレンジ線)の割合はほぼ継続的に低下しており、アベノミクス期もその延長線上にある。

「暮らしが厳しい」と言い続けることがもたらす悪影響

以上、暮らし向きに関する政府の意識調査2種とその他の意識調査3種を調べてみると、同じ国民を対象にしているのであるから当然ではあるが、聞き方によって多少の違いはあってもほぼ同一の傾向を示している。

すなわち、基本的に、アベノミクス期に国民の暮らしは良くなっているとは言えても、厳しくなっているとはとてもいえない。直近の年次には、やや厳しくなっている兆候もあるが、それでもアベノミクス期全体で過去の水準と比較して暮らしが厳しくなったとはいえない水準を保っている。

失業率や就職率などに見られるアベノミクス期の雇用改善は明らかであり、「トータルな生活実感」としては、実質賃金の減少のマイナス効果を補って余りある状況だと言ってもよいのではなかろうか。

もっとも、第2次安倍政権以前の民主党政権当時から継続的に暮らしが改善していると見られるケースが多く、アベノミクスという政策が功を奏して改善が図られたとは必ずしもいえないことも確かである。出口の見えない金融緩和や財政赤字の累積といった多くの犠牲を払いながら、単に、経済循環上の回復傾向を邪魔しなかっただけとも解せるのである。

問題は、誰かに「暮らしが厳しい」と言われると、明確な証拠もなく「そうだそうだ」と相づちを打ってしまうわれわれの精神態度にある。したがって、新聞やテレビで「暮らしが厳しい」ことを示す記事、映像、インタビューなどを見聞きすると単純にそれが世の中の大勢だと思い込んでしまうのである。