過去の「最悪の状況」から脱した水準を維持している

誰でも理解できることだと思うが、「生活にゆとりがあるか、苦しいか」と聞かれて、自分の生活は「ゆとりがある」とまでは言えないと考える者が多くなるのは当然であろう。結果、どちらかといえば「苦しい」に傾く。

実際、1980年から「苦しい」が「ゆとりがある」を下回ったことなど1回もなかった。ある年の「苦しい」の値が過半数だということだけで、暮らしが厳しくなっていると結論づけるのはやや無理があるといえる。「苦しい」と答える人が増えているか減っているかを見なければならないのである。

長期的な推移で、1990年前後のバブル経済の崩壊以後は「苦しい」、特に「大変苦しい」が増加し、「普通」が減少する傾向がかなり長く続いた。こうした傾向はアベノミクス2年目の2014年をピークに逆転するに至った。「普通」が増え、「苦しい」が減少したのである。

その意味ではアベノミクス期に生活は改善したように見える。なお、第2次安倍政権の発足は2012年12月であるが、ここでは、新政権の政策的影響が出始める2013年をアベノミクス1年目としている。

ところが、2017年からは「大変苦しい」が再度増加に転じ、2018年には「普通」も再度減り始めた。つまり、バブル崩壊後の傾向に逆戻りしつつあるように見えるのである。だが、単年ではなく、数年単位の推移で見てみよう。すると図の通り、過去の最悪の状況からすれば、そう悪くない水準を維持しているといえる。

では、生活は向上しているか?

次に、「国民生活基礎調査」より昔から、暮らしに対する意識を継続的に追っている内閣府の「国民生活に関する世論調査」の結果を見てみよう(図表2)。

生活の向上感(1965~2018年)

「昨年と比べて生活は向上しているか、低下しているか」というシンプルな設問の調査である。1973年のオイルショック以前の高度成長期には「向上している」(赤線)が「低下している」(青線)を上回っていたが、それ以後は、すべて両者は逆転したままである。オイルショック以降で両者がもっとも近づいたのは、まだバブルの余韻が残っていた1991年である。

その後、「低下している」が増え「向上している」が減るという、まさに「失われた10年」「失われた20年」という言葉が当てはまる状況となり、「低下している」がリーマンショック前後の2008~2009年にピークを記している。

2010年以降、景気は最悪の状況を脱し、民主党政権期を経て、第2次安倍政権期になっても、持続的に「低下している」は減り、「向上している」あるいは「同じようなもの」(黒線)が増えてきている。少なくとも2018年の6月までは暮らしは厳しくなっていない。2014年は一時的に「低下している」が増えたが、これは消費税の5%から8%への引き上げの影響と見られる。

なお、「国民生活に関する世論調査」では別の設問で「生活満足度」を聞いているが、前出の「同じようなもの」と回答した比率と、この「生活に満足している」人の比率がほぼパラレルに推移している点が興味深い。こちらの生活満足度の指標から判断しても、アベノミクス期に「暮らしが厳しくなった」とは認めづらい。