「長期的な戦略より政権維持の思惑が優先される」

中断していた米中貿易協議が再開されることになり、アメリカは中国に対する制裁関税を当面引き上げず、トランプ氏は中国通信機器大手「華為技術(ファーウェイ)」への米国製品の輸出を容認する考えも示した。

それなりの成果だが、これらは安倍首相の調整でうまくいったわけでない。商売上手なトランプ氏のやり方であり、それを学んだ習氏の対応ぶりが良かったからここまで成果を上げたのである。安倍首相の存在感は薄まるばかりだ。

朝日社説は書く。

「安倍政権で目立つのは、国内世論の受けを優先させる姿勢だ。G20サミットは例年、G7サミットの後に開かれてきた。今回、G20議長国の日本が慣例に反し、G7の前に開催したのは、参院選の直前に『外交の安倍』を世論にアピールする狙いとみられている」
「いったい、何のための外交なのか。長期的な戦略より政権維持の思惑が優先されるなら、その行き着く先は危うい」

安倍首相の思惑は参院選での勝利であり、その先には悲願の憲法改正がある。

プーチン氏との会談でも何も生み出せない

7月1日付の毎日新聞の社説は、安倍首相と大阪G20サミットで来日したロシアのプーチン大統領との会談を取り上げ、こう厳しく指摘する。

「北方領土返還で重大な方針転換を行い、譲歩を重ねたものの、何も生み出すことができなかった」

安倍首相は昨年11月のシンガポール会談を踏まえ、6月29日のプーチン氏との会談で、北方領土の返還を含む日露平和条約の大筋合意を目指していた。

「しかし、結果はロシア側が求める経済協力の推進などに限られ、平和条約の核心である北方四島の帰属問題は先送りされた」

ここでも安倍首相の存在感は薄まるばかりだ。毎日社説は書く。

「リスクを日本政府はどこまで見越していたのか」

「ロシアは、北方領土を『合法的』に占有しており、ロシアの主権下にあると日本が認めることが平和条約締結の絶対条件と主張した」
「プーチン氏の人気が経済低迷でかげり、北方領土返還への反対デモも起きた。強硬姿勢を取らざるを得なくなったのだろう」
「米露関係の悪化も交渉を困難にした。日本に領土を引き渡した後、米軍が展開することへの懸念にプーチン氏は繰り返し言及した」

こう書いた後、毎日社説は「こうしたリスクを日本政府はどこまで見越していたのだろうか」と日本側の姿勢を疑問視する。

残念なことに、安倍首相には交渉相手のプーチン氏の胸の内を理解する力がないのだ。