【田原】翌年には三井住友銀行で実証実験を始めた。

【藤巻】技術ができかかっていたときに、タイミングよく三井住友フィナンシャルグループの谷崎勝教CIOがシリコンバレーの視察にいらっしゃいました。もともと自社のために開発していた技術でしたが、プレゼンをしたら興味を持ってくださり、実証実験につながりました。この実験がうまくいって、製品化することに決まりました。

【田原】さて、そこからが興味深いですね。NECは社内で製品化するのではなく、藤巻さんを独立させて製品化する道を選んだ。どういうことですか?

【藤巻】私はNECで10年、研究開発に携わってきました。その経験から、これまでのやり方ではこの技術を製品化できないことが目に見えていた。それでカーブアウトしてやらせてほしいと掛け合ったんです。

【田原】なぜ社内ではできない?

よければすぐ出すというスピード感

【藤巻】ソフトウエアの世界は、アイデアを思いついたらすぐに試して、よければすぐ出すというスピード感で動いています。しかし、日本の大企業の研究開発は、基礎研究に2~3年、製品化にさらに2年かけるというスピードで動いています。これは大企業の宿命のようなもの。組織が大きいと、既存事業といろいろ調整しなければいけないことがあって、どうしても意思決定が遅れるのです。

【田原】よくわかります。でも、いい技術なら会社は中でつくらせたいはず。どうしてOKしたんだろう。

【藤巻】最初は社内でやるべきだという声が大勢を占めていました。私が社外でやるメリットを説いても、「どうせ自分の利益のために言っているのだろう」と相手にされなくて。でも、半年くらいで風向きが変わりました。根底にあったのは、NECも変わらなくてはいけないという判断です。とくに新規事業推進チームなどコーポレートの方たちが「NECとして新しいチャレンジが必要だ」と味方になってくれました。

【田原】でも、NECは開発費用を出していたわけでしょ。藤巻さんが独立したら、おいしいところを刈り取れずに損するんじゃないですか?

【藤巻】カーブアウトしたdotDataという会社に、NECは投資家として出資をしています。dotDataがIPO(株式公開)すれば、NECは大きなキャピタルゲインを手にすることになります。また、日本市場での販売権はNECにあるので、内でつくろうと外でつくろうと、売って儲けることができるんです。