【藤巻】日本はソフトウエア工学が米国より大きく遅れています。ソフトウエアは単にプログラムを書けばできるというものではなく、作り方に方法論がある。日本は、そこが弱い。
【田原】何で遅れているの?
優秀な若い人たちが集まって研究も進む
【藤巻】お金ですね。海外のソフトウエアエンジニアたちに、なぜそちらは進んでいるのかと聞くと、「給料が高いから」と言っていました。つまり、ソフトウエア産業がたくさんお金を払うから、優秀な若い人たちが集まって研究も進むわけです。
【田原】話を戻しましょう。NECではどんな研究をしていたのですか?
【藤巻】当時はデータマイニングと呼ばれていた機械学習の研究グループにいました。最初は、自動車や機械システムにつけたセンサーのデータを機械学習で分析する研究でした。
【田原】よくわからない。具体的にどういうこと?
【藤巻】たとえば自動車にいろいろなセンサーをつけてデータを収集すると、その数値から「エンジン系に故障がある」と早い段階で故障を発見したり、「そろそろ空力系に故障が発生しそうだ」と予測してメンテナンスができます。そうした分析を、機械に自動でやらせる研究です。
【田原】人間ではわからないの?
【藤巻】人間にもわかりますよ。ただ、ディーラーに行く前に先にデータを送って自動診断しておけば、行ってすぐ修理ができる。一方、人間が調べると時間がかかるし、見落としもあります。たとえば熟練の修理工なら音を聞いてエンジンの状態を把握できるかもしれませんが、みんなが優れた技術を持っているわけではありません。それを機械にやらせれば、見落としが減って技術の底上げができます。
【田原】いま藤巻さんが事業展開しているデータ分析の自動化ソリューションも、NECで研究を始められたそうですね。最初から説明してほしいのですが、データ分析の自動化ソリューションって、いったい何でしょう?
【藤巻】いまAIによるデータ分析は魔法の箱のように言われていますよね。でも、本当はソフトウエアにデータを入れればポンと出てくるようなものではありません。AIで学習させるにはモデルが必要で、それをつくるためにさまざまな作業が発生します。その作業を自動で行うソリューションです。
【田原】一般的にAIのモデルをつくるのに、どれくらいかかるのですか。
【藤巻】ケースバイケースですが、普通は1つのモデルをつくるのに数カ月かかります。もちろん人数をかければ期間を短縮できますが、モデルをつくる高度な技術を持つ人材は限りがあります。私たち自身も当時それで苦労していたので、モデルをつくる作業を何とか自動化できないかと考えて研究を始めたわけです。