テクノロジーが高度に発達した世界で、人間という存在はどのように変わっていくのか。独特の世界観で人類の未来を描く作家、上田岳弘。第160回芥川賞受賞作『ニムロッド』など話題作を精力的に発表しているが、じつはIT企業の役員を務めるビジネスパーソンでもある。インターネットで無料配信した後に単行本化した最新作『キュー』のテーマは、憲法9条と戦争。国の在り方をめぐって、田原総一朗と大激論した――。

5歳で作家になろうと決意

【田原】上田さんは5歳のころから作家になろうと考えていたそうですね。

作家・会社役員 上田岳弘氏

【上田】僕は上に兄姉が3人います。当時はインターネットがない時代なので、兄姉はみんな本を読んでいました。4人目になると親も子育てに飽きるようで、ほったらかし。みんなの気を引きたくて、将来は彼らが夢中になっている本を書く人になろうと考えたんです。ただ、本を書く人になるというのは照れがあって、幼稚園の卒園のしおりには「本屋さんになりたい」と書いた気がします。

【田原】上田さんのインタビュー記事を読んだら、テレビのドキュメンタリー番組がお好きだったとか。それなら文芸よりノンフィクションだ。どうして小説家に?

【上田】小説のほうが自由じゃないですか。ノンフィクションというけれど、いま起きていることが本当のこととは限りません。いまたまたまある形をして現れているけど、その一歩先に本当のことがあるかもしれない。それを書くには、小説かなと。

【田原】大学に入って、アルバイトをしながら小説を書いたと。どんな作品を書いていたのですか?

【上田】学生時代はなかなか書けなかったんです。読書量が足りなかったし、書く対象も見出せていなくて。それでも1冊くらい書かなくちゃと思って、22歳くらいのときに400枚の長編を初めて書きましたが、話も文章もメタメタでした。

【田原】読書量が足りなかった?

【上田】はい。そう自己分析して、大学3年生のときに古本屋さんに行って片っ端から本を買って読みました。200~300冊は読んだんじゃないでしょうか。

【田原】たくさん読んでみて、どういう作家がおもしろいと思った?

【上田】小説以外のものを含めて雑食的に何でも読みましたが、本棚を見ると、マキャベリとかニーチェの本によくマーカーを引いていました。哲学系の本が好きだったみたいです。

【田原】たとえばドストエフスキーは興味なかった?