それって仮想通貨とよく似てる

【上田】人間は通貨を使う前から富を持っていましたよね。最初は物々交換するしかなかったけど、貝殻を通貨としてみんなが認めるようになってから、形のなかった富を扱えるようになった。それって仮想通貨とよく似てるなと思って。

田原総一朗●1934年、滋賀県生まれ。早稲田大学文学部卒業後、岩波映画製作所入社。テレビ東京を経て、77年よりフリーのジャーナリストに。著書に『起業家のように考える。』ほか。

【田原】貝殻を富として認めるのは誰なの? いま通貨は国がその価値を保証しています。でも当時は国どころか、社会もまだ発達してない。

【上田】それでも仲間の合意があればいい。昔は武器が通貨だった時代もありますからね。みんなが価値を認めれば、それが通貨になる。

【田原】国の通貨がない時代ならまだ、何かが新しい通貨になるのはわかります。でも、すでに通貨があるのに、どうして仮想通貨?

【上田】国を信頼しきれない人が多かったんでしょう。ビットコインを信頼しているのは、自国の通貨がハードカレンシー(国際通貨)じゃない国の人たちです。たとえばベネズエラやモルディブの人たちにとっては、自国通貨よりビットコインのほうが信用されている。

【田原】でも上田さんはベネズエラ人じゃないよ。円を持つ人にとっては、仮想通貨は博打ですよ。上田さんも持ってる?

【上田】ニムロッド』を書くタイミングで、取材のためにコインチェックに口座をつくりました。でも、入金する直前で不正流出問題が発生しまして……。

【田原】僕は、仮想通貨のリアリティのなさに上田さんは興味を持ったんだと思った。でも、そうじゃない?

【上田】いや、そのとおりですよ。国家管理通貨でないものが10兆円の価値を持ってしまったという現象は、いったい何なんだと。ただ、先ほど言ったように人類は国の通貨がない時代から富を扱っていました。当時の貝殻はとてもふわふわしたものだったはずで、仮想通貨のリアリティのなさと似ているんじゃないかと。

【田原】もう1つ、僕がおもしろいと思ったモチーフが、実在する世界の「ダメな飛行機」です。なぜダメな飛行機に興味を持ったの?

【上田】インターネット検索をしていたら偶然、ダメな飛行機コレクションというページを見つけました。紹介されていたのは、原子力が動力なのに、重いと燃費が悪いのでシールドを外し、パイロットが被ばくして死んでしまう飛行機とか、寸胴の形をしていて、飛ばそうとしたら燃料が尽きるまでプロペラが回り続けて1ミリも浮かなかった飛行機など。なんかおかしみがありません?

【田原】でも、ダメな飛行機を造ってきたから、ちゃんと飛ぶ飛行機もできたんじゃない?

【上田】そうなんですよ。ダメな飛行機が生まれたのは、飛行機が試行錯誤の段階だったから。いま一応完成してしまうと、もう失敗が許されなくて、社会的に息苦しい状況になっています。