なぜ長渕剛は自身をアップデートするのか

自分の発言も、「もしかしたら別な見方をされるかもしれないな」と、常に客観的にとらえる訓練を積み重ねていけば、失言のリスクは格段に減少するのではないでしょうか。

談志はよく、「俺はまちがっている」と言っていました。これは相当な自信がないといえないセリフではありますが、自身を常に客観的に見ていた証しでしょう。

筋トレのすばらしさは、そんな相対的かつ客観的なデータで示された自分の力が、正しい訓練を積むことによってどんどんアップデートされていくことです。

歌手の長渕剛さんも、熱心な筋トレマニアとして知られています。私は長渕さんの通うジムをたまにビジターで使わせていただくことがあるのですが、関係者いわく、長渕さんの体重は筋トレをはじめたときには58キロ程度しかなかった。それがきちんとしたトレーニングと食事の積み重ねで、筋肥大により体重を増やしていき、8年かけてベンチプレス100キロを達成したとのことでした。

つまりコツコツと努力すること(具体的には筋肥大)によって自らがアップデートされる醍醐味が、筋トレには内在されているわけです。

筋トレで、もっと優しくなろう

そして、「どうだ、ベンチプレス100キロ上がったぜ」と威張っている横で、自分より年配の方が130キロを上げていたりするのを見ると、「ああ、俺もまだまだだなあ、もっと頑張らなきゃ」と、自分をいっそう客観的に受け止めることになる。言い換えれば、常に成長意欲をかき立てる点に、筋トレの奥深さがあるのです。

立川談慶『老後は非マジメのすすめ』(春陽堂書店)

このような「客観力×相対化」という積立貯金が満額になったときに起こるのが、「メタ認知」なのではないかと推察します。

メタ認知とは、自己のあり方を、客観的に認知すること。一見、むずかしい言葉に聞こえますが、要するに「自分がこう振る舞えば、相手はこう感じるだろう」という、一歩先を行く想像力を意味しています。それは相手への思いやりで、自分と他者を客観的かつ相対的に見つめなければできない芸当です。

具体的にいえば、荷物を抱えたお年寄りがコンビニに近づいてきたら、さっと半歩先に行ってドアを開けてあげるような行為がその象徴です。俗にいう「優しさ」とは、一歩先を行く想像力がもたらすものでもあるでしょう。

そんな他者を想像する優しさこそが、人生最大のリスクヘッジになると私は考えます。失言をはじめとするさまざまなしくじりを回避する最良の策は、マニュアルを配ることではなく、こんな優しさを磨くこと。そしてこういう「優しさ体質」を育む修行として、数値的に自身を客観視できる筋トレがおすすめなのです。

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