吉本問題の本質
一連の闇営業を巡る問題は、いまや矛先が変わり、吉本興業幹部への批判の声が高まっています。「吉本を辞める!」とまで言い出したタレントさんたちが一向に辞める気配がない様子は、まるで閉店セールをずっと続けているお店のようです。吉本は新たに「エージェント契約」の導入を発表するなど収束の気配を見せているものの、この問題の本質とは何だったのか。ここで私は落語家の立場から今回の出来事について述べてみたいと思います。
ズバリ言います。闇営業も含めて、所属タレントや社長による発言など、この問題のすべてに通底するのは、「大半の所属タレントが食えていない」という厳しい現実ではないでしょうか。売れる・売れないはともかく、まずは事務所を当てにせず自分の芸だけで食べていくことができていれば、そもそも今回のように紛糾することはなかったはずだと私は確信しています。
翻って落語家はというと、みんながそこそこ食べていけている状況です。そりゃもちろん、落語家だって誰もがそれぞれの生活を抱えて大変な状況にあるとは思いますが、少なくともテレビでレギュラー番組を持っていない私でも、家のローンを払い、私立高校に通う高3と高1の息子の教育費をきっちり賄い、入門前に覚悟していた貧乏生活とは程遠い状態にあります。
「談志の弟子」という看板が大きいのは確かでしょう。それにしても、私はこれまで「生活苦から落語家を辞めた」というような話は耳にしたことがありません。こうした実態を考慮すると、吉本所属のタレントさんたちに比べてかなり恵まれていると言えるでしょう。
芸人と落語家の決定的違い
では、なぜ落語家は事務所に頼らず食べていけるのでしょうか? その答えは、「テレビをメインにしない活動を行っているから」ではないかと思います。以下、わかりやすく解説するために、極端に論じます。
吉本をはじめ、養成所からスタートするお笑い芸人さんたちは、最初こそライブ活動からスタートするのが一般的ですが、一番の目的はテレビに出ることにあります。つまり、ライブで腕を磨き、テレビ出演のチャンスをゲットし、さらにはそこで気の利いたリアクションをするなどして認知してもらい、ひな壇芸人などの居場所を確保していくのが彼らの目標です(無論、例外はあります)。
一方、落語家にとってテレビは“主”ではなく“従”であり、まずは落語という技芸の習得に大半の時間を割くことになります。
養成所系の芸人さんたちと落語家との一番の違いは、「前座修行」にあります。前座修行はプロの落語家になるための通過儀礼であり、これを経ていなければプロと認められません。
落語という芸の基礎が「型」の定着である以上、どうしても必要な期間であり、その間はまずは入門した師匠の身の回りの世話から始まり、寄席に入ったら太鼓叩き、高座返し、着物たたみと楽屋作法をたたき込まれます。ちなみに私の場合は、寄席の楽屋での修行がない分、談志からのマンツーマンで鍛えられました。