吉本興業・岡本昭彦社長の記者会見は、どこがダメだったのか。報道対策アドバイザーの窪田順生氏は、「何かを諦めなければ、何も伝わらない。岡本社長にはその覚悟がなかった。これは『不倫がバレて、家族も愛人も守りたいというオッサン』を思い浮かべるとわかりやすい」と解説する――。
所属タレントが反社会的勢力の会合に出席して金銭を受け取っていた問題で記者会見し、会見中断を受け、控え室に引き揚げる吉本興業の岡本昭彦社長(手前)と藤原寛副社長=2019年7月22日、東京都新宿区。(写真=時事通信フォト)

会見がうまくいけば事態収拾は早かった

吉本興業の一連のゴタゴタがようやく終息へ向かい始めた。

経営アドバイザリー委員の設置、芸人とも必要とあらば契約書を結ぶ……などさまざまな再発防止策を世に示したことに加えて、松本人志さんをはじめ芸人自身が問題解決に動き出したことで、世論も落ち着きをみせている。

だが、このような事態の収拾は本来、「会見」でやるべきことは言うまでもない。岡本昭彦社長の会見が「0点」「史上最悪」とボロカスにたたかれるものでなければ、もっと早く、もっとナチュラルに、事態は収まっていたのだ。

筆者はこれまで10年ほど、謝罪会見の準備、事前トレーニングに携わってきた。記者が100人以上集まるような大企業の謝罪会見も、「裏方」として手伝ったこともある。

そういう仕事をする人間の目から見て、あの会見の問題点と本来やるべきだった対策について指摘したい。

世論をつくるための「戦略」がなかった

岡本社長の記者会見のどこがダメだったか。プロの目からすると、それは「戦略がなかった」ということに尽きる。

会見というものは、頭を深々と下げたり、記者の質問に正直に答えたりすればいいと誤解されている方も多いが、そういうものではない。企業側が考える理想的な世論をつくりだすため、戦略的にメッセージを発信していく格好の機会なのだ。

それを踏まえて、あの時点で吉本としてのゴール、つまり、「理想的な世論」とはどんなものかを考えておかなければいけない。現実の会見で社長の発言を見るかぎり、吉本としてはこんな落としどころを狙っていたのではないかと推察できる。

ゴール(1)宮迫博之さんらが会見で明かしたことは、「誤解」もしくは「嘘」である
ゴール(2)謝罪会見が1カ月以上も遅れたのは、隠蔽目的ではなく、信頼関係が崩れたから

ゴール(3)ギャラや待遇の不満はあるかもしれないが、今後も大崎・岡本体制でやっていく