問題の発端から目をそらすテクニック

このようなメリットに加えて、筆者が「岡本社長が恫喝発言を認めるべきだった」という理由はもう一つある。マスコミと社会の関心をこちらに集中させることで、本件のクリティカルポイントである「吉本と反社」から目をそらせるのだ。

この問題のそもそもの発端は、吉本興業自身が、問題の反社会勢力企業がスポンサーに名を連ねるイベントにタレントを派遣したことである(※)

※筆者註:この点については、ダイヤモンドオンラインの「吉本経営陣が宮迫氏らの謝罪会見を頑なに拒んだ本当の理由」という記事で詳しく指摘した。

カラテカの入江慎也さんは宮迫さんらをオファーした際、吉本自身がこの反社企業がカネを出したイベントにタレントを派遣した「実績」があったことから、この反社企業を信用したのだ。にもかかわらず、吉本にはペナルティはなく、芸人だけが「無期限謹慎」や「契約解除」として世間から激しいバッシングを受けている。

今回、会見に集まったのはテレビや芸能記者などの「吉本の身内」が多かったので、このあたりの追及が甘く、今もほとんど問題視されていない。しかし、企業の不正や経済事件を日常的に扱っている人間であれば、1カ月以上も会見が開かれなかった背景に、どういう「力学」が働いたのかは容易に想像がついてしまうのだ。

もっと怒りを刺激するネタを提供する

では、このリスキーな話から人々の目をそらすためにはどうすればいいのか。それはもっとわかりやすく、もっと怒りを刺激して、もっと注目を集めるネタを提供すればいい。それが、宮迫さんの「嘘」であり、岡本社長の「恫喝」だ。

「悪いのは宮迫だ」「いや、大崎―岡本ライン」だと騒ぎ、”マスコミ裁判”で人々の溜飲を下げれば、構造的、本質的な問題から大衆の目をそらすことができる。

そのような意味では、『FRIDAY』が再び報じた宮迫さんと金塊強奪犯らとの“ギャラ飲み疑惑”に対して、吉本が「契約解消の撤回についても、再度検討せざるを得ない」というリリースを出したことは極めて戦略的だ。このようなメッセージを会見の場で、岡本社長がしっかりとやっていれば、世論はもっと早く変わっていたはずだ。