「カテゴリー」でパラダイムを変える

田中正人、香月孝史『社会学用語図鑑』(プレジデント社)

同じように、セクハラが実際に起きたときの企業のリスク管理も変わりました。以前であれば企業のリスク管理は、セクハラを告発して騒ぎ立てた女性を切ろうとしていました。その女性を社内で孤立させたり、就業規則違反がないか細部にわたって逐一チェックしたりと、辞めさせるためにすさまじい手段が使われていた。

けれど、今ではむしろセクハラの加害者をできるだけ早く切ることの方が、組織のリスク管理として有益であるという認識が定着してきました。カテゴリーができると、パラダイムが変わるんです。

まさに昨年、その通りのことが財務省で起きましたね。セクハラ行為を告発された事務次官が、行為が認定されないうちに早々と事実上辞めさせられましたね。今日のリスク管理のパラダイムからすれば、セオリー通りです。カテゴリー化することで、ここまで社会は変えられるんです。

社会学者のジュディス・バトラーは「セックスはつねにジェンダーである」と言っています。この場合のセックスは「生物学的・科学的性差」、ジェンダーは「人為的性差」を表します。その意味するところを『社会学用語図鑑』ではこのように説明しています。

*『社会学用語図鑑』初版のp239は、上野千鶴子先生のご指摘により若干訂正が加えられました。(画像=『社会学用語辞典』)

上野 千鶴子(うえの・ちづこ)
社会学者
1948年生まれ。京都大学大学院社会学博士課程修了、コロンビア大学客員教授などを経て、93年東京大学文学部助教授、95年東京大学大学院人文社会系研究科教授。現在、東京大学名誉教授。認定NPO法人WAN理事長。
(インタビュー=田中正人 構成=香月孝史 撮影=プレジデント社書籍編集部)
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