経験を“再定義”する
いったん、セクハラという言葉が定着してカテゴリーが作られると、「経験の再定義」が起きます。過去にさかのぼって、あのとき私が受けたのはセクハラというものだったのね、と認識することができるようになります。
過去のその時点では、自分が何に遭ったのかわからないし、相手が不当なことをしているのか自分が悪いのかもわからない。もやもやしたものを感じているのだけれど、それの正体がわからないから飲み込むしかない。それが、セクハラという概念を手に入れることで、過去に遡って経験が再定義できるわけです。
つまり、あのときの経験は不当な仕打ちなのだから怒っていいんだ、相手の方が悪いんだと思えるということです。だから、被害者の行動が変わるんです。これは圧倒的な変化です。私たちはそういうことを30年くらいかけてやってきたのです。
「セクハラ研修」の対象が男性社員になった
それから、セクハラ研修が大きく変化しました。かつては企業のセクハラ研修というと、セクハラの被害者になる蓋然性が高い人たち、つまり女性社員が研修の対象でした。セクハラを避けるにはどうしたらいいか、もしセクハラを受けたらどうふるまったらいいかということを講師がレクチャーしていました。
ところが、1997年に改正雇用機会均等法ができて(1999年施行)、セクハラの防止に向けた配慮義務やセクハラが起きた際の対応義務が、事業主の雇用管理上の責任として盛り込まれると、研修のあり方が180度変わりました。研修の対象が女性社員ではなく、セクハラ加害者になる蓋然性の高いグループ、つまり管理職以上の男性社員になったんです。この流れがセクハラ研修業界に一気に広がって、マーケットが拡大しました。