「フェニミズムを掲げた作品」という認識はない

【原田】そうなんだ! 「肉弾戦」ってプロレスかアメフトみたいだね(笑)。「美少女戦士セーラームーン」にもバトルシーンはあったけど、女性らしく優雅でエレガントだった。プリキュアのほうが明らかに激しい。うちの娘が「肉弾戦」を見て育つと思うと末恐ろしい……。この「肉弾戦」というコアエッセンスの根底には、フェミニズム的な考えはあったんですか?

【柳川】ネットスラング的に言うところの「ポリコレ棒でたたかれるといけないから、配慮する」ということではなく、あくまでその時々の制作陣が子供たちに向けて「こういうものを作りたい」という思いが先にあり、結果として社会の流れが反映される、そんな順番だと思います。だから特に「フェニミズムを掲げた作品」という認識はありません。

ただ同性の先輩として、プリキュアを楽しんでくれている多くの女の子が生きやすい社会になってほしいという思いは強いです。ジャンダーギャップはなくなってほしいですし、職業、家族のあり方などで選択肢を狭めてほしくない。生きていて違和感をもったときに、それを甘んじて受け入れるのではなく、立ち向かっていく心の強さを子どもたちには育んでほしいです。

【原田】あくまでも世相を映した結果であると。ちなみに「プリキュア」シリーズに女性のプロデューサーは多いんですか?

【柳川】男性のほうが多いですね

【原田】えっ! そうなの? 女児向けのプリキュアの世界でも男性社会だったんだ!

【柳川】そうなんですよ。でも、だからこそジェンダーニュートラルじゃないですけど、男の子っぽい要素も入った結果、他の女児アニメとは一線を画すテイストが「プリキュア」の雰囲気として確立されたのではないでしょうか。

「人と違うこと」「人と同じこと」の面白さや喜びを表現

【原田】今回プロデュースするにあたって、過去の「プリキュア」シリーズはどれくらい踏まえているんでしょうか。

【柳川】実はあまり気にしていません。これは毎年のことですが、「プリキュア」は、その年に集まったスタッフが何か新しいチャレンジをしたいというなかで発展してきたので、今までのシリーズを意識して踏襲するというよりは、毎年リニューアルを重ねて新しいものをイチから作るというイメージなんですよ。

スター☆トゥインクルプリキュアの4人の主人公。左から、キュアスター、キュアミルキー、キュアソレイユ、キュアセレーネ。©ABC-A・東映アニメーション

【原田】世相の反映ということで言うと、「スター☆トゥインクルプリキュア(以下、スタプリ)」では宇宙人のプリキュア(キュアミルキー)や、褐色の肌のプリキュア(キュアソレイユ)がいたりしますが、やはりここには、今、グローバルでテーマになっている「多様性」のテーマが内包されているんですか。

【柳川】「スタプリ」に限らず、個性や多様性は毎年の「プリキュア」でずっとテーマになっています。今回の宇宙人は「自分と全然違う存在」の象徴なんです。地球人から見れば地球外生命体は全て「宇宙人」という言葉に分類されてしまうけれど、宇宙の星々に多様な生命が存在することを知っている宇宙人からしたら、地球人は「異星人」ということで、作中の言葉の選び方にもこだわっています。

「人と違うこと」「人と同じこと」の面白さや喜びを表現したくて、地球人側もある程度バリエーションを出しました。それでソレイユの父親はメキシコ人、母親は日本人という設定にしたんです。