「プリキュア」から生き方を学ぶ時代が来る

【柳川】当時、雙葉で外の高校を受験する人はほとんどいなかったんですよ。私が慶應女子に受かったのも私が初めてだったらしいんですけど、その翌年にも受かった子が出たんです。当時、外の高校を受験する人はほとんどいなかったのですが、私が外の高校に受かったら、翌年にも外に出る子が出たらしいんです。

「スタプリ」の第2話はそれに近い話で、プリキュアになれないと諦めていたララは、ひかるがプリキュアに変身したことで「私もなれる」と信じることができて、変身できた。自分で道を切り開くのはもちろん大事なんですけど、先人が切り開いてくれたからこそ自分も目指せるということは、確実にある。特に1話と2話ではそれが凝縮されていたと思います。

東映アニメーション プロデューサーの柳川あかりさん

「これは人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては大きな飛躍である」という宇宙飛行士ニール・アームストロングの有名な言葉がありますが、プリキュアはまさに「小さな一歩」を踏み出す物語だと思うのです。

【原田】覚悟を決めて飛び出して、自分が先駆者になったら後の人が必ず続いてくれる。あるいは、先駆者がいるんだから自分だって飛び出したって大丈夫。そんな教育的メッセージが込められているんだ。日本は大変閉鎖的な国だし、若者も安定志向で保守的な傾向が見られるようになってきているから、こうしたメッセージを、特に女児が受け取ることができるのは、日本社会にとって本当に大切なことだと思います。

長引く平成不況や高齢化の影響もあり、日本人全体が内向きで保守的になってきていると思うから、小さな女の子だけでなく、世のおじさんが「プリキュア」から生き方を学ぶ時代が来るかもしれませんね。

「日本のテレビアニメが海外ではウケない」は本当か

【原田】ところで、先ほどの異文化交流という話につなげると、日本のテレビアニメが海外ではウケないとか、表現的に問題があって海外に持っていけないケースがあるとかよく言われるじゃないですか。柳川さんはこの状況をどう捉えているんですか。

【柳川】子供向けテレビアニメに限っていうと、表現もビジネスモデルもグローバルスタンダードからズレているんだなとは思います。ただ、どこを目指すかによると思うんですよ。

確かに日本の子ども向けテレビアニメは、肌の露出があったり暴力描写があったりして、子供向け作品としては海外のテレビで放送しづらい。それに国内の子供向けテレビアニメは、番組で登場する重要アイテムを実際に商品展開し、それをビジネスの核に据えるパターンが多いのですが、欧米だと少ない。

アニメ、グッズ、ゲーム、出版など多角的に展開することでアニメのプロジェクト全体が熱を帯びてくるので、その中の一カテゴリだけ切り出して海外に持って行ったとしても国内ほどの爆発力はない。アニメの放送や配信だけでなく、商品の流通の問題にもなってくるんですね。そこは戦略次第というか、ぜひ自分が開拓してみたい市場ではあるんですけど。