15年続く日曜朝の女児向けアニメ「プリキュア」。今年2月から始まった最新作では、父親はメキシコ人、母親は日本人というキャラが登場している。ほかにも「海外展開」を意識した要素がいくつもあるという。狙いはなにか。女児向けマーケティングの最先端について、柳川あかりプロデューサーとサイバーエージェント次世代生活研究所・所長の原田曜平氏の対談をお届けしよう――。(後編/全2回)
「スタプリ」のプロデューサーを務める東映アニメーションの柳川あかりさん。(撮影=プレジデントオンライン編集部、以下すべて同じ)

アニメ好きだからこそ「売れるアニメ」を考えたかった

【原田】柳川さんは、どうして東映アニメーションに入社したんですか?

【柳川】実は、もともと好きだったのは子供向けの商業アニメではなく、アートアニメーションなんですよ。日本の作品だと作家性の強いものを好んで観ていました。

【原田】「プリキュア」からはかなり遠いですね。

【柳川】結局、そういう作品って商業的な爆発はなかなかしない。それがすごく残念で、じゃあ広く売るにはどうしたらいいんだろう、発信するのが大事じゃないだろうかというところで興味が広がり、東映アニメーションに行き着きました。映像を多角的に売る企業としては、アニメの制作会社の中では最大手だと思うので。

【原田】アニメは自動車と並ぶぐらい世界で日本のプレゼンスを高めているのにもかかわらず、業界全体の職場環境が悪く、食べていくことも大変な人が多いみたいだね。日本は「職人の国」だから、好きなものを作ることには世界でも圧倒的に長けている。一方、アメリカや韓国なんかに比べると、外に売るのが本当にへたくそ。そんな状況にやきもきして、アニメ好きだからこそ「売れるアニメ」について考えられる場に身を置いたわけだね。

スター☆トゥインクルプリキュアの4人の主人公。テーマは「ネオ80's」と「宇宙かわいい」だ。©ABC-A・東映アニメーション

【原田】東映アニメーションはかなりの老舗で、「プリキュア」も15年続く長期シリーズだけど、そのプロデューサーを担うことについて、プレッシャーはなかったんですか?

【柳川】前作の「HUGっと!プリキュア」が15周年作品だったので、その後だから大変じゃない? みたいなお声も色んな方からいただきはしたんですけど、自分自身としてはそんなにプレッシャーに感じてないんですよ。

プリキュアのコアのひとつは「肉弾戦」

【原田】そう? 歌舞伎役者だって親の名前を襲名したらプレッシャーを感じると思うけど、君があまりプレッシャーを感じておらず、しかも、リスクをとっていろいろと新しいチャレンジを試みることができている理由って何だろう?

【柳川】怖さよりも、新しいものを作り出すワクワク感の方が勝っているからでしょうか。原作なしのオリジナルとしては、初めて手がける作品ということもあり、子供たちに向けてどんなメッセージを伝えたいか、どんなコンセプトで映像を作りたいかなど、自分の28年間の経験や思いが高い純度で盛り込まれているという点も大きいです。

また毎年スタッフが入れ替わり、モチーフやキャラクターが一新するその振り幅こそが番組が長く愛されている理由だとも思うので、自分が信じる「プリキュア像」を精いっぱいお届けでできればと思います。

【原田】基本的に毎年キャラクターや舞台が一新されていますが、変えちゃいけないコンセプトというか、ブランド論でいうところのブランドの「コアエッセンス」みたいなものはあるんですか?

【柳川】まだうまく言語化できていませんが、ひとつ言うなら、「肉弾戦」かもしれません。2004年の第1作目「ふたりはプリキュア」が掲げていたキャッチコピーは「女の子だって暴れたい!」で、従来の女の子イメージを突破するものでした。それまでの女の子向けアニメにも魔法を使った敵とのバトルはありましたが、肉体を駆使して直接のぶつかり合いはなかったので。