企画書には「歴代プリキュアのなかで一番多国籍」

【原田】今、世界全体でエンタメに多様性を取り入れることが大きなテーマになっていますね。ディズニーの『リメンバー・ミー』ではヒスパニック系が正面から描かれていたし、『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』ではベトナム系が重要な役をやった。アジア系の登場人物だけなのに大ヒットした『クレイジー・リッチ!』という映画もあった。日本でも東京を中心に「隠れ移民(留学生など移民という言葉で取り扱われていない外国人)」が急増しているし、公立の小学校ではハーフの子が珍しくない。だから、その設定は今の世界にも日本にも合ったテーマと言えるね。

【柳川】企画書では「歴代プリキュアのなかで一番多国籍」と書いていました。今までの「プリキュア」シリーズからすると、かなり盛り込みましたね。

私自身、小学校の頃はアメリカにいたのですが、子供の頃に見ていたカートゥーンと比べると、日本のアニメにはもっといろんな人種の子が登場していいんじゃないかという思いがずっとありました。これまでの「プリキュア」も個性豊かではあるのですが、見た目・出身・言語のバリエーションをさらに広げたいなと。

サイバーエージェント次世代生活研究所・所長の原田曜平氏

【原田】そうか。日本に先んじて移民大国になったアメリカ生活での経験が活かされているんだね。他にもアメリカ生活での経験が活かされている点はあるのかな?

「おにぎりのシーン」でアメリカの小学校を思い出すワケ

【柳川】第2話で、主人公のひかる(キュアスター)が、ララ(キュアミルキー)におにぎりを差し出すシーンで、ララは一度拒否するけど、結局食べて感動するんです。これは私のアメリカの小学校での経験を思い出します。

日本の学校でもそうだと思うんですけど、みんなと違うお弁当を持っていくと、いじめられたりするじゃないですか。だけど私はあえておにぎりを持って行ったところ、学校のみんなに「おすしだ!」って言われて仲良くなれたんです。なので、実は「多様性」というより「異文化交流」みたいなものを目指しているのかもしれませんね、「スタプリ」は。

【原田】なるほど。多様性が進んだ結果、いじめであったりネガティブな結末に陥ったりすることも実際の世の中にはある。でも、子供向けの作品としてあくまで異文化交流という前向きな描き方をしているわけだね。そういえば、柳川さんは小中が雙葉で、高校が慶應女子なんですよね。雙葉のまま進学することもできたのに、あえて飛び出した。高校受験で慶應女子に受かるのは相当難しかったでしょう。アメリカの学校におにぎりを持って行ったのも、雙葉だって十分いい学校なのにそこから飛び出したのも、どこか共通するものを感じます。

【柳川】自分の「1カ所にとどまっている必要はない。外の世界に飛び出して、自分の目でいろいろな世界を見たい」みたいな気持ちは、「スタプリ」の「地球から宇宙へ」という思いに込めているところがありますね。