たとえば、社長が「値下げをして売るな」という指示を出したとしよう。これは「会社を運営するには適正な利益が必要であり、その利益は次のサービス向上につながっていく」という経営者の合理的な発想に基づいている。
ところが、指示を受けた営業マンは、社長の意図を素通りして「じゃあ、売るなということか!」と受け止めてしまう。なぜかというと、営業マンは先々の経営の話よりも目先のノルマのほうに関心があるからだ。まず売り上げのノルマがあり、それを達成すべく努力しているのに、安くして売ることはまかりならんというのでは、どちらに行っていいのかわからなくなってしまうのだ。そうなると、せっかく指示を出しても利益が上がるどころか営業マンのモチベーションが低下するだけ、となってしまうおそれもある。
それでは、こうしたコミュニケーションの“パイプ詰まり”を解消するにはどうしたらいいか。
よく営業マンに対して「経営者の意識を持て」というが、経験していない立場でものごとを考えろといってもそれは無理。ふつうの従業員は、会社が儲かるよりも自分のボーナスが増えることのほうがうれしいのだ。
しかし経営者はかつて現場を経験している。営業経験のある人も少なくない。だから、コミュニケーションを円滑にするには、もっぱら経営者サイドが相手(営業マン)の立場や考え方、目的に合ったかたちで、よく噛み砕いた説明を心がけるべきだろう。
いちばん効果的なのが会議の活用である。営業部門に限らず、会議はふつう営業マンなど下の者が上にプレゼンする場所になっている。だが、本来は経営者が営業マンなど下に対してプレゼンをする場所だと考えるべきだ。
現状では、経営者がプレゼンする場合は「数字だけ」ということが多い。たとえば「今年の売り上げ目標は50億円であり、そのうち第1営業部には20億円の予算がついている。だから、あなたの予算は6000万円です」となる。
しかし、そういうプレゼンを受けた営業マンが必ず漏らすのは「会社の方向性やビジョンが見えない」ということだ。50億円なり20億円なりを売った先に何があり、自分は経営者として将来何をしたいのか、そしてこの会社はなぜ存在しているのか、ということを社長が伝えていないからだ。
もちろん社長の頭の中には、それに対する答えが全部入っている。社長自身としては納得してやっていることなので、あえてアウトプットする必要性を感じない、というのが真相だろう。
しかし、営業マンは別の人間なので社長の内心など知るはずがない。だから社長は、心に抱いている部分を繰り返し繰り返し、徹底してアウトプットしていくべきなのだ。
その結果、個々の営業マンが「うちの会社はこういう会社で、今年50億売るのはこういう理由があるからか。じゃあ、俺が売らなきゃダメだな」と自分から考えるように仕向けていければ成功である。
会社の規模などによっても異なるが、私がポイントだと感じているのは「社長個人が人間として話す」ということだ。「俺はこうしたい」という社長のメッセージが伝われば効果的だろう。社長と営業マンとの距離感がぐっと縮まるのである。
もちろん情感に訴えかけるだけでは意味がない。重要なのはロジックである。とりわけ「なぜ予算が50億円なのか」「なぜ新人を10人採用するのか」という「なぜ」の理由をしっかりと全部説明できる社長は、現場との距離を感じさせない。
以上はほんのさわりだが、営業マンと社長の意識のギャップを埋めるためには、社長の側からの働きかけが大事であるということを理解していただければ幸いである。