転職が不利にならない労働慣行・制度の導入

生涯現役社会は早期に実現すべきだが、スキルや能力に応じた評価・報酬制度が広がる前に、一律に企業へ定年引き上げを要請すれば、働き手の学び直しの意識も高まらないまま、企業は雇用を抱え続けることになり、日本企業の生産性がじわじわと低下していくのではないか。

第三に、転職が不利にならない労働慣行・制度としていくことも重要だ。人生100年時代においては、定年まで一社で働き、その後は退職金の取り崩しや年金で暮らすという単線型のキャリアパスは現実的ではなく、学び直して新たな職に挑戦する複線型のキャリア形成が前提となる。そのためには、転職が不利にならない雇用慣行や、労働移動に中立な退職金・年金制度を実現していく必要があろう。

おりしも本年4月1日より「働き方改革関連法」が順次施行され始めたが、「働き方改革」はこれでゴールではない。目指すべきは、未来の経済社会・技術の潮流を見据え、日本の労働市場・慣行を進化させることによって、多様な人材が労働市場へ参加し、学び直せばいつでも新たな挑戦ができるようになり、皆がより良い将来の展望を持てるようになることではないだろうか。

武田洋子(たけだ・ようこ)
三菱総合研究所 政策・経済研究センター長・チーフエコノミスト
ジョージタウン大学公共政策大学院修士課程修了。1994年日本銀行入行。2009年三菱総合研究所入社。財政制度等審議会委員(2015年~)、産業構造審議会総会委員(2017年~)、労働政策審議会労働政策基本部会委員(2017年~)、産業構造審議会 2050経済社会構造部会委員(2018年~)、働き方改革フォローアップ会合構成員(2018年~)等に就任。
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