人材のミスマッチ解消に向けて何が必要か

では、どうすれば人材のミスマッチを解消できるのであろうか。答えは労働市場への新規参入者も含め、人材のポートフォリオを定型的なタスクの領域から、創造的なタスクの領域へとシフトさせていくことであろう。そうした労働移動を円滑に実現していくため、三菱総合研究所では、「FLAP」サイクルの形成を提言している(図表4)。

FLAPとは当社の造語で、個人が自分の適性を知り(Find)、スキルアップに必要な知識を学び(Learn)、目指す方向へと行動し(Act)、新たなステージで活躍する(Perform)ことを意味する。

このサイクルを回すためには、質の高い学び直しの機会が極めて重要であることは言うまでもない。OECDによれば、日本の修士課程入学者に占める30歳以上の割合は13.2%と、OECDの平均の28.8%を大きく下回る。

もっとも、政府や企業が学び直しへの補助金を増やしたとしても、個人が何を学びたいのか分からない、あるいは、学び直しや働き手のスキルに対する日本企業の評価制度自体が変わらなければ、人々が学び直し、行動するインセンティブが働かないためサイクルは回らず、人材のミスマッチ解消はなかなか進まないであろう。

企業はスキルや能力に基づく評価・報酬制度を導入せよ

具体的には、下記の3つの点が重要と考える。

第一に、職業情報の「みえる化」により、個人に「気づき」を与えることである。現状、個人が自らキャリアを設計しようとしても、世の中にどのような職があり、その職にはどのような適正やスキルが必要で、待遇や将来性はどうなのか、知ることは難しい。

米国では、1998年から職の統合データベース「O*NET」をウェブサイト上で提供している。約1000種の職種の情報が提供され、個人の適性診断も可能だ。日本でも、「日本版O-NET」の運用が予定されているが、利害や関心を有する人々が共通言語でコミュニケーションできるよう、民間にも使いやすいシステムとすることが重要だ。

第二に、スキルや能力に基づく評価・報酬制度である。図表3で示した人材ポートフォリオと平均年収の関係をみると、米国では創造的なタスクの度合いが高まるにつれて年収が増加する傾向があるのに対し、日本は両者の関係が不明瞭である。これでは、スキルを身に着け、定型型タスクから創造的タスクへと、自主的に行動し、新たなステージで活躍するインセンティブは高まりにくい。