辛いとかくさいは「足し算」ではなく「かけ算」

ここで右項にある「log」が、高校で習った「対数」であったことを思い出していただきたい。そして、右項のKとI0、そしてeは定数である。ということは感覚の強さは、そのときの刺激の強さIの対数に比例することになる。別な言い方をすると、辛いとかくさいといった感覚は「足し算」ではなく、「かけ算」で感じているということになるのだ。

何も対数が出てきたらかといって、拒絶反応を示さないでいただきたい。要はかけ算の回数のことである。1000の対数は「1000=10×10×10」と10を3回かけるので「3」となる。100の場合は「100=10×10」と10を2回かけた数なので、100の対数は2となる。

つまり、辛さ10のカレーを2倍の辛さにしたければ、「10×10=100倍」の辛み成分にしなければならない計算になる。エネルギー1の音の大きさの場合は、エネルギーを10倍にして、ようやく2倍の大きさに聞こえる。逆に部屋に充満させたオナラ成分が100のニオイは、オナラ成分を10分の1の10に減らして、ようやくくさいニオイが半減したと感じるのだ。

こう見てくると、人間の感覚というのは鈍感に感じるようにできていることがわかる。もちろん、この法則で感覚の仕組みのすべてを説明できるわけではない。感覚の定量的なモデリングに初めて成功したということである。

最後に話は変わるが、このウェーバー・フェヒナーの法則にも、ネイピア数のeが顔を出しているのは面白くはないか。誠にもって不思議な数といえる。

桜井 進
サイエンスナビゲータ1968年生まれ。東京工業大学理学部数学科卒業、同大学大学院修了。2000年、日本で初めてのサイエンスナビゲーターとして活動を開始。『面白くて眠れなくなる数学』など著書多数。
(構成=田之上 信 写真=iStock.com)
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