「どれだけ多くの声優が食えていないか」

確かに僕が声優の仕事を始めた30年前に比べれば、仕事の幅も機会も広がっています。とはいえ、それでも必要とされる声優の数は、全体として、たった300人程度とも考えられているようです。

なお現在、声優業界でもっとも大きな事務所に所属する声優の数がおおよそ300人とされています。もしその全員が「食えている」とすれば、一つの事務所だけで業界全ての仕事を回せる、ということになります。これはつまり、「どれだけ多くの声優が食えていないか」という実情を表しているとも言えそうです。

若い方が今「声優になりたい」と考えた際、最初に思い浮かぶのはおそらく専門学校への進学ではないでしょうか。

確かに声優が人気の職業となった現在、声優科を持つ専門学校がたくさん開校しました。

本を執筆していた16年当時にインターネットで調べたところ、大手の全日制のみで30以上の学校があることを確認できました。夜間や土日のみ、さらには中学生の進学先としての高等部も登場し、それぞれのニーズに合った学び方が選べるようになっているようです。実際に、現在活躍している声優の8割は専門学校出身者と言われています。

しかし声優の現実を見れば、あくまで属性としては「個人事業主」であって、決してその立場は一般的な会社員でも、公務員でもありません。定型の仕事が存在するわけではなく、不安定なままで、求められる仕事や立場は人によって本当にさまざま。学校で学んだからといって、決して全員が声優になれるわけではないのです。

現役声優が講師とは限らない

しかも、もしあなたが声優を志し、声優科のある専門学校に進学しても、必ずしも現役声優が講師として授業をしてくれるとは限りません。

もちろん、声優が講師を務めていることも多いですが、中には「技術を教える」ための知識や教育を受けた方たちで、誤解を恐れずに書けば、この混沌とした声優業界と、本当の意味で覚悟を持って向き合ったことのない講師がいることも事実です。それがどういう事態につながるかは、私の著書『声優道』を読んでいただければ、よくお分かりでしょう。

その場合、講師は現役の声優ではなく、あくまで「学校の先生」ですから、生徒たちはそれぞれの学校が作成したマニュアルに沿った授業を受けることになります。学校のカラーが色濃く表れた節回しを学び、まるで楽譜をたどるような声を習得しかねない。