観光だけじゃない、吉村市長の大阪のビジョン

現在では大阪城公園や道頓堀、戎橋など多くの観光スポットが民間主導での管理となり、官営では生まれなかった自由さで発展しており、大阪城公園や道頓堀は“インスタ映え”するスポットとして人気を集めている。SNS経由で観光客自身が発信者となり、宣伝を担っている部分も大きいという。

大阪市の観光面は間違いなく潤っている。しかしそれ以外の面はどうだろうか。関西電力の電力販売量は16年に中部電力に抜かれて以降、3位に甘んじているほか、15年度の県内総生産でも愛知県に抜かれ、大阪府は3位となっている。今後、大阪は観光に注力していく方針なのだろうか。

吉村市長の答えは「観光は基幹産業の1つではあるが、観光だけでは大阪はよくなっていかない」というものだった。

「大阪の強みは、新しい分野にチャレンジする精神。関西弁で言うと『やってみなはれ』ですかね。大阪は全国的にも起業率がかなり高い都市。こういった部分を大事にしていくために、環境を整備して起業率を高めていきたいと思っています。また中小企業も多いので、事業継承ができるような土壌も整えていきたい」

大阪の企業のため、なんばとうめきたを拠点としてアジアを中心に国外進出ができるような土壌を整備していきたいと語る吉村市長。まずは市場経済を活性化させることで、東京へ転出してしまった大企業を呼び戻したいという意図もあるようだ。

また、現状では東京-名古屋間で開通後、45年までに大阪へ延伸予定となっていたリニア中央新幹線。大阪開通が当初の計画より最大で8年前倒しとなった今でも「遅すぎる」という声が集まっているが、これについても想定内のようだ。

「リニアの計画は大阪の成長に沿った、現実的なプランだと思っています。施設や地下鉄の民営化だけでなく、大阪府と市が連携し、二重行政を排してきたからこそここまでの発展があると思っているので。今までのお役所経営のままでいたら、現在の8年前倒しすらなかった」

現状を踏まえたうえで、未来に目を向ける大阪だが、気になるのはカジノ・IR(統合型リゾート)の問題だ。18年7月下旬のIR整備法公布以降、今までのビジョンが急ピッチで具現化することが考えられる。以前からIRに賛成の方針を示していた吉村市長は「IRは今の大阪に足りないものを急速に補完していく」と語る。

「現在大阪に足りていないのはナイトエンターテインメント。大阪が国際的なエンタメの街となるには、IRによって起こされる化学反応により、新しい分野のエンターテインメントや産業が必要です」

夜の消費額が足りない、という問題は前出の溝畑氏も指摘していた点だ。溝畑氏は「IRは今まで実現できなかったことの起爆剤になる」と解説。IRを契機にJR桜島線の夢洲沿線や地下鉄中央線、京阪電車の乗り入れに着手し、交通の利便性を向上させたいという考えのようだ。