私は翻訳と通訳の仕事以外にもジャーナリストとして取材することも多い。そこでも相手に対する敬意と思いやりはとても大切だと思う。誰でも自分に対して強い興味を持ち、前もってしっかりと調べて取材する人には心を開いてくれる。開口一番に聞くべきは、相手が話したいこと。それから、「はい、いいえ」の択一で答えられる質問ではなく、「どう思うか?」などのオープンクエスチョンにすることだ。これなら2時間でも3時間でも話してくれるだろう。
大物で簡単には会えない人の場合はどうか。皆さんは20世紀最大の海運王と言われたギリシャの実業家、アリストテレス・オナシスに会いたいと思った若いビジネスマンが何をしたか、わかるだろうか。オナシスが滞在するペントハウスのエレベーターに一日中乗っていたのだ。その日の遅く、出会うことができた。
だから、本当に会いたいなら、その人のことをとことん考えるといい。
以前、作家で僧侶の今東光さんの担当編集者だった島地勝彦さんにお会いしたいと思ったことがある。その頃、島地さん担当の連載記事の中で、今度、今さんの三十三回忌なんだよね、と。ということは島地さんの性格から考えて、絶対その日は今さんのお墓に来るに違いないと考えた。上野の寛永寺で2時間待っていたところ、お会いすることができた。
また、今はすっかり親しくさせていただいている、Jリーグで監督を歴任したランコ・ポポヴィッチさんに取材したいと思ったときのこと。彼のチームのコーチを介して、メールを送った。そのとき使ったのはスペイン語だ。彼はセルビア出身だが、スペインでの選手生活も経験している。絶対にスペイン語はわかるだろうし、英語よりもリラックスして読んでもらえると思ったのだ。今でもやりとりは全部スペイン語だ。
私の必殺トーク術:「はい」「いいえ」で終わる質問はしない
翻訳家・通訳者・ジャーナリスト
1979年生まれ。2000年米国ニューヨーク州立大学ポツダム校入学。イスラエルのテル・アヴィヴ大学にも交換留学。英語とスペイン語の多言語話者。