『伝える力』は最強の説教本

私も5年間ほどNHKに勤務していましたから、NHKイズムを共有していることからでしょうか、『伝える力』に書かれていることには一カ所も異論なし。逆に言うと、「ああ、そうか」と初めて知ったこともありません。奇をてらわない池上さんの人となりそのものを感じます。

叱るときは1人のとき、褒めるときは大勢の前でとか、雑誌『プレジデント』の読者なら既に知っていることばかりです。でも、知っていても実践できているでしょうか? 例えば本書に「叱るときは愛情を持って」とありますが、私、池上さんに厳しくダメ出しされたことがあります。話すのは得意だと自負していたのですが、「あなたのコミュニケーションは自分ばかりを伝えている。知識をひけらかしている。1の知識を10ぐらいに膨らましてる。でも、君が1と思っていることも実態は0.1ぐらいだから、君の値打ちは100分の1だ」って。

飄々とした表情で怒った感じでは全然ない。未熟だったからへこみました。ボロクソなんでね。その場面、わざわざダメ出しなどせず、放っておいてもよかったのです。それなのにきちんと欠点を指摘してくださった。今でもはっきりと覚えています。本当に感謝しています。

でもね、やっぱり僕は自分のことばかりしゃべりがちだし、偉ぶるし、10倍ぐらい自分を大きく見せたくなる。変わっていない。私ほどではないにしろ、皆さんそういうところをお持ちだと思うのです。でも、それじゃダメだよって、気持ちよく池上さんに説教してもらえる最強の説教本です。

具体的なテクニックを学ぼうと思うのだったら、読まないほうがいい。でも、テクニックを知っていても、それがきちんとできているかというと、できていない人のほうが多い。だからぜひ、この本を読んで池上さんに説教してもらいましょう。

『聞く力』は苦戦しながら相手の魅力を引き出していく、聞き下手な阿川さんの成長の記録です。どの職場でも、ペラペラしゃべるという意味での話し上手はいても、聞き上手な人は少ない。これが現代人のコミュニケーションの一番の問題です。

話す行為は前頭前野を中心に文章を組み立てているわけですが、話し上手な人は表現のフォーマットを持っています。そこへ流し込めば、どんな話でも興味深く伝えられる。話が面白い人は、みんなそれぞれ話し方のパターンを持っています。だから、話し下手な人も訓練次第で話し上手になる。それほど難しいことではありません。