なぜ「社長」は前歴のある20代の更生を手伝うのか
なるほど、そういう縁もあって更正を手伝おうと思い、再雇用を決めたのか。犯罪者を雇うことに消極的な経営者が多い中、たいしたものだと思ったが、話はそれで終わらない。証人は仕事の面倒を見るだけではなく、すべての不安材料を自分が引き受ける心づもりなのである。
「更正のために必要なのはつぎのことだと考えます。一所懸命に仕事をやること。規則正しい生活を送ること。あたりまえのことをちゃんとすること。約束を守ること。小さな子どももいるんで、恥じないように生きて欲しい」
これらを満たすため、証人が実行していることは再雇用以外にもある。
・被告人を自宅に住まわせ、食事も提供
・養育費や借金の返済など、金銭管理を行っている(保釈金も保証人が建て替えた)
裁判所が危惧する、社会復帰後の仕事、住居、生活の管理や監督、これらすべてを保証人が受け持っているのだ。がっちりとした体型、無骨だけど歯切れのいい受け答え。それらすべてが頼もしく見えてくる。
兄弟も雇っているのだから、搾取するような腹黒さはないだろう。「いまは100%こちらで管理していますが、私は手助けをしているだけです。家には半年でも1年でもいてくれてかまいませんが、今後自立するためにも滞納した家賃などをまず返し、その上で貯金もして、社会人として出直して欲しい」
自宅に住まわせて面倒を見る――。自分にできるかと問われたら尻込みする。いまは反省しているとしても、またやるんじゃないかと信用しきれないと思う。でも証人はやるのだ。見返りはない。器のでっかい人である。僕は証人の人を信じる心に感嘆した。
求刑は2年だったが、執行猶予は確実だろう。
「一服していくか」「そうっすね」
さらに続きがある。1階に降り、ロビーで傍聴メモを整理していると、証人と被告人が肩を並べて歩いてきたのだ。何か話しながら、一緒に開廷表を見ている。その姿は、まるで親子のようだ。被告人も法廷の緊張感がとけたのか、なごやかな顔に変わっていた。
本物だ。証人の中には、頼まれて仕方なく被告人にとって有利になる話をする人もいると思うが、二人の関係はそうじゃない。証人は世知辛い社会の防波堤となり、被告人を守ろうとするだろう。
こんな社長はめったにいないのではないだろうか。小さな会社だから面倒見がいいのではない。ちょっとでも問題を起こせばクビ、まして犯罪者の雇用などとんでもないと考える企業が大多数だろう。おそらく被告人は、自分がどれほど幸運か、よくわかっていないと思う。
「一服していくか」
「そうっすね」
仲良く喫煙所へ向かうふたりに、僕は心の中で声をかけた。社長には“いいもの見せていただきました”、そして被告人には“あとはアンタ次第だ。ぜひともこのツキを自分のものにして立ち直ってくれ”と。