昔話をしないのも、効果的です。人は人生の中で10~20代のことをよく覚えており、年をとると当時の思い出話が増える傾向があります。昔話は思い出せる数が限られていますし、次第に類型化していく。それを避けるには、雑誌でもテレビでもいいから、新しい情報を仕入れて、最近の話をするようにしましょう。ただし入力するだけではダメ。テストの点が高いのは参考書を何度も読む人より、問題集を何度も解く人のほうで、出力を磨くほうが脳は成長します。仕入れた情報を人に話して、出力を心がけるのが大切です。

最後に、同じ話ばかりしている上司への対処法にもふれておきます。「また同じ話していますよ」と指摘するのは相手のプライドを傷つけるだけ。だから向こうが気づくように持っていくのが得策です。話を知っていれば先の展開が読めるわけで、「もしかしたら、こんなこと起きました?」と聞き上手風に合いの手を入れてみる。上司も「どうしていつも先がわかるんだろう?」と考え、原因に思い至るはずです。「このタイミングで先を読んだら、どんな反応をするかな」と、コミュニケーションのゲームに参加する気分で臨みたいものです。

池谷裕二(いけがや・ゆうじ)
東京大学薬学部教授
薬学博士、脳研究者。海馬の研究を通じ、脳の健康や老化について探求をつづける。著書に『進化しすぎた脳』『単純な脳、複雑な「私」』『自分では気づかない、ココロの盲点 完全版 本当の自分を知る練習問題80』など多数。
(構成=鈴木 工 写真=iStock.com)
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