「なんかわからんけど威厳のある人」
「なんか問題あらへんか?」
紺の伊勢木綿の洋装で、髪を後ろに束ねた威厳のある「おばさん」が、店員にそう声をかける。声をかけられた店員は怪訝な顔をして「誰や、このおばさんは」ということになる。彼女を知っている店員は直立不動で顔も引きつり、緊張と戸惑いをあらわにする。イオンの実質的な創業者、小嶋千鶴子の店舗巡回の様子である。
小嶋千鶴子の印象は知っている人にとっては「厳しいひと」「怖いひと」であり、知らない人には「なんかわからんけど威厳のある人」というように映る。
小嶋の店舗視察の目的は単なる視察にとどまらない。小嶋にとって店舗とは、お客様への経営努力のすべてが集約されている場所である。会社全体の問題を発見するための「場」なのである。
そのため、担当者が「問題ありません」などと調子の良いことを言おうものなら「カミナリ」が落ちる。問題意識が薄い、知識がない、当事者意識がないと、その担当の個人評価はもちろんのこと、店全体のマネジメント、店長の部下教育の評価も下がる。
さらに小嶋は、売り場の実態(欠品がある、品ぞろえが悪い)、従業員のモラールや不満の程度まで、広範囲にわたりどこかに問題がないかと探る。その意識は広く、深い。会社全体の方針や施策に問題ないか、経営者として商人としてアタマがフル回転する。
欠品は社員教育に問題あり
たとえば、売り場に欠品があったとすると、その原因がどこにあるか突き止めようとする。担当者の能力の問題か、商品の発注システムの問題か、発注の仕方の教育の問題か。
店舗視察から戻ると能力開発部長を呼び、「店の商品発注についての教育の実態」を問いただし、果ては、カリキュラムを持ってこさせて、欠けている部分があれば付加検討の指示をするのである。商品の欠品にひとつでも、そこまでの責任が能力開発部長にあることを認識させる。
小嶋は方針や指示、教育など決して「やりぱっなし」にせず、必ず検証する。そのしつこさたるや尋常ではない。