縦糸は「純粋理論」、横糸は「激しい情」
小嶋にはもって生まれた知性と勉強熱心から得た豊富な知識がある。
豊富な知識はいわゆる俗物的なものではなく、純粋理論・理想に近い知識を好み、それを有している。それは単なる物知りではなく「実践」「経験」「検証」「洞察」から得た知識である。これが縦糸の知性である。
先ほどの「問題」のとらえ方も理想と現実とのギャップ、目標と現状とのギャップとして捉え、帰納法的なやり方よりも、演繹的思考でもって経営課題の解決を図ろうとする。
もう一つはやや個人固有に属する「問題」である。経営的課題は前者であり後者は個人対応のことである。双方に対して小嶋の「問題あらへんか」である。
小嶋の横糸は「激しい情」である。とにかく気性が激しく公(会社)の問題に対しては誰であろうと容赦しない。したがって、小嶋を深く理解しない人にとっては、権力者・情け無用・怖い人となる。
社員に見せる「慈母」の面
小嶋は激しい気性の反面、社員の個人的な問題については、女性らしい母親的できめ細かな対応をとる。親の看護や病気、本人の病気やその妻や子の病気など、自己申告書に書かれていた場合にはすぐさま適切な病院や医師を紹介し、場合によっては人事異動等に反映させる。自己申告は年に2回実施し、小嶋と私が手分けして全社員分に目を通す。
「あのな、B君は子供がなかなかできんそうやな。今度、福井か北陸へ異動できへんか? 温泉もあの辺は多いし」と言う。はじめは冗談だと思ったが小嶋はいたって真面目である。もちろん異動となった。
数年後、A君に子供ができたと聞いた。親のことや妻や子のことは、社員本人ではどうすることもできない事柄が多い。社員が全力で会社の仕事に注力できるには、家庭に憂いがあってはできない。この時ばかりは「慈母」である。