管理職の登用試験においてこんなことがあった。各資格試験の上位者10名ほどを本社に呼び、面接試験を実施する。面接官は小嶋と人事本部の部長と私である。

面接が終了すると今年の出来具合を評価するのだが、「東海君、今年の出来は良くないな、それとも優秀な子をすくい上げないような筆記試験を君が作ったんか?」といって、今度は試験問題を取り寄せて評価が始まる。試験を受けているのは登用試験の被面接者ではなく「私」になるのである。

ちなみに、各資格の登用試験問題のすべては私が数年担当した。

「コスト削減案」を烈火のごとく叱責する

小嶋は店舗巡回時には売り場はもちろんのこと、一番先に後方部分「社員食堂」「更衣室」「ロッカー」を見て回る。社員食堂では、メニューを見て偏ったものではないかを確認し、従業員には「おいしいですか?」と尋ねる。整理整頓の程度、掲示板での古い掲示物がありはしないか。更衣室、ロッカーに汚れた衣類や関係のない私物は置かれていないか、丁寧にみて回る。店長には細かくよく行き届いた配慮やマネジメントを要求する。

東海友和『イオンを創った女 評伝小嶋千鶴子』(プレジデント社)

店長にとってはひやひやモノである。

こんなことがあった。全国の人事担当者会議の席上に店舗開発部長から提案説明があった時のことである。

開発部長が「現在店舗のコスト削減の一環として、後方部門の面積を削減したいと考えています。その中で現在社員食堂にかかるコストのウエイトが高く、面積も広く、厨房設備が高いので、この際に社員食堂をなくそうという案が開発部で検討されています。人事のみなさんのご意見をいただきたいのでこの場をお借りして説明に参りました」という。

やや得意げに説明した開発部長に対して、小嶋は烈火のごとく怒り出した。

「何をあほなことを開発は考えとるんや。社員食堂や休憩室を何と考えとる。コストの問題ではなく、一日中立ち仕事をしている従業員にとって、温かい食事と足を伸ばせる休憩室がどれほど大切か分かっておらん。余計なことを考えないで他の要素を研究せなあかんやろ。たとえば、売り場の良く目につく場所にサービスカウンターを作り、お客様のお尋ね事やご苦情など一括して受けるなどして、レジでのチェッカーの負担をなくすことなどを考えたらどうや。何をアメリカに視察に行っとるや。あんたとこの本部長に小嶋がこういうとったと言っとき」で終わった。

「問題あらへんか?」の小嶋の問いに対する答えは、隠すことなく、おもねることもなく、自己宣伝をすることなく、ただ率直に問題と認識していることを言うことに尽きる。いわば正しい情報を忌憚なく提供することであり、小嶋もそれを望んでいたのである。

それに対する答えは、提供者本人が望めば、小嶋が教えてくれるし気付かせてくれる。