社長自身も「勉強になった」

話し合いの場でS社長は、Aさんと新人男性のB君に対して、「性別によって扱いの違いがあったことは申し訳なかった」と謝罪した上で、「ただ、雑用と呼ばれるような地味な作業も、職場の生産性を高めるには欠かせない重要な仕事だ。しかも、社会人として必要なスキルを身に付けられる業務が凝縮されている。AさんもB君も、雑用をやらされていると腐らずに、どんな仕事でも前向きに取り組んでほしい」と思いを伝えたそうだ。

一方で、先輩女性たちに対しては、「自分たちの若い頃と比べてしまうのはよくわかる」と気持ちに寄り添った上で、「ただ、自分たちの世代の当たり前をそのまま押し付けても、今の若い世代には伝わらない。今後は、思い込みや先入観を持ち込まずに、丁寧に指導してほしい」と歩み寄りを促したそうだ。

「今回の件は、私自身も勉強になりました。実は自分では、働きやすい職場づくりに積極的に取り組んでいるつもりでした。育休制度もいち早く整備しましたし、コミュニケーション研修も毎年お願いしていますしね。だけど、根本的なところが見えていなかったみたいですね」とS社長はふり返った。

職場の生産性向上にむけて

今回は、女性同士の世代間ギャップに端を発した職場トラブルの事例を紹介した。しかし、職場にあるギャップは、当然ながら女性だけの問題ではない。性別のギャップもあれば、上司と部下といった立場のギャップ、バブル組と氷河期組といった世代間のギャップも存在する。

大切なことは、そういったギャップに端を発したトラブルを、個人の問題として放置せず、職場全体で問題解決に取り組むことだ。

職場全体で認識を共有し、問題を一般化することで、当事者に対して「ギャップを感じているのは、自分だけじゃない」という安心感をもたらす。そしてようやく、「互いにギャップを埋めていこう」と前向きな気持ちが整っていく。

もちろん、問題の程度が深刻であったり、当事者に別の意図があったりする場合など、話し合いですんなり解決できるケースばかりではない。しかし、いったん労働者に寄り添おうとするプロセスは、決して無駄にはならないはずだ。

このようなプロセスを経ることは、アナログ作業ばかりで、ともすると時代と逆行しているように思うかもしれない。だが、根本的な問題を脇に置いて、イメージ先行で職場内コミュニケーションを語っても、結果につなげていくことは難しい。

性別や立場や世代が違う者に対しても、関心をもち、想像力を働かせ、あらゆる問題に当事者意識をもって取り組んでいく。そういった地道な積み重ねこそが、円滑な職場の人間関係を作り出し、職場の生産性の向上を実現させるのではないだろうか。

岡田 留理(おかだ・るり)
公益財団法人ふくい産業支援センター職員/特定社会保険労務士
福井県生まれ。同志社大学卒業後、勤めていた職場を出産を機に退職。子どもが1歳の時、社会保険労務士試験にチャレンジし、合格。翌年、個人事務所を開業。経営と育児と家事を両立させながら、中小企業の顧問社労士、労働局の総合労働相談員、人材育成コンサルタントなどに取り組む。2015年4月に公益財団法人ふくい産業支援センターに入社。県内の創業・ベンチャー支援業務を担当し、現在に至る。
(ふくい創業者育成プロジェクト http://www.s-project.biz/
(写真=iStock.com)
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