なぜ地方自治体のベンチャー支援は成功例が乏しいのか。ふくい産業支援センターの岡田留理さんは「福井県は2017年から『ベンチャーピッチ』を予算化し、これまで8回の実績がある。振り返ってみると、イベントを続けられたのは、セオリーを知らず、他県のまねをしなかったからではないかと思う」という――。
窓口で説明する女性
写真=iStock.com/byryo
※写真はイメージです

「地方」とひとくくりにできるのか

経済政策「アベノミクス」の第3の矢にあたる成長戦略を実現する施策として、全国各地でベンチャー支援が行われ始めたのは2014年ごろだ。その後の岸田内閣も、地方創生×デジタルの文脈で、地方発ベンチャーの重要性を示している。

地方発ベンチャーが注目され始めて10年近くたつが、いったいどれだけの「地方」がベンチャー支援に手応えを感じているのだろうかと、ふと思う。

ひとくくりに「地方」と言っても、そのサイズ感はさまざまだ。たとえば、名古屋市・広島市・福岡市・仙台市など、ベンチャー支援が盛り上がる「地方」は、福井に暮らす私から見ると、人口100万人超えの歴然たる大都市だ。地方というもののサイズ感は、比較対象がどこかによって大きく変わる。

サイズ感だけではない。気質や文化、抱えるボトルネックも地域ごとに独特だ。他地域の成功事例を示される中で、自分の地域にどうカスタマイズすればいいのか、手探りしている「地方」もまだまだ多いように思う。

「社長輩出率ナンバーワン県=ベンチャーが盛ん」ではない

福井は、人口減少や少子高齢化、若者の流出などの問題を抱える、いわゆる「田舎」と呼ばれる地方県だ。人口は約75万人で、練馬区の人口とほぼ同じ。大学の数は6校で、大学生の総数は1万人弱。県内の大学生全員を集めても、早稲田大学の1学年分にも満たない人数だ。人口あたりの社長輩出率は38年間連続で全国1位(帝国データバンク福井支社2020年調査)だが、決して気鋭のスタートアップ創業が相次いでいるわけではない。

福井では繊維やメガネなど分業が進んだ地場産業が多く、家族や個人で経営する小規模事業所が多数を占める。着実安定を望む後継ぎ経営者が大半で、資金調達は銀行融資が主流。大企業と下請けという従来の系列取引関係にある中小企業が多い中、経営方針はお世辞にもベンチャーマインドが旺盛という土地柄とは言えない。

そんな福井県がベンチャー支援に着手したのは2017年。新たな事業「福井ベンチャーピッチ」を予算化し、県内の中小企業支援を担う福井県の関連団体「公益財団法人ふくい産業支援センター」がその立ち上げを託され、センター職員である私がその担当者になった。

当時の福井は、「ベンチャー不毛の地」そのものだった。担当を命じられた私自身も、ベンチャーという言葉すら知らないズブの素人。企業や企業を取り巻く自治体や金融機関、支援機関等もほとんど何の知識もなかった。