一般的には20代~30代前半の若手が中心だが…

② セオリーを知らなかった

2017年当時は、ピッチイベントのオンライン配信が無かった時代だ。担当者のくせに、ピッチイベント運営など他県のベンチャー支援の取り組みをほとんど見たこともなく、手掛かりはうわさを聞きかじった程度の情報だけというひどいありさまだったが、今ふり返ると、先入観を持たずに始められたことが、適切なターゲットや地域課題の発見につながった。

立ち上げ当初は、とにかく事情がわからないので、試行錯誤を重ねながらピッチイベントを開催していた。回を重ねていくうちに、どうやら福井では、都会でやっているベンチャー支援とは「支援すべきターゲット」も「解消すべきボトルネック」も全く違うということが次第にわかってきた。

一般的なベンチャー支援のターゲットゾーンは20代から30代前半の若手というイメージだが、福井の場合は30代後半から40代がメインだ。小規模ながらも10年近く事業を続け、十分な実績を積んだ段階で従来のやり方から大きくかじを切って急成長を目指す経営者が多数を占める。小粒でもビジネスモデルの収益性や信用力が高く、かつ、経営者の人格も優れているのが福井企業の特徴だ。

屋外で握手を交わすビジネスマン
写真=iStock.com/Nalinee Supapornpasupad
※写真はイメージです

一方で、高いポテンシャルを持っているにもかかわらず、スピード感を持って成長しようという意識がやや薄い点がボトルネックになっていた。つまりは、マインドセットを大きく変えていくことが福井におけるベンチャー支援の最大のテーマだったのだ。

ターゲットや地域課題を適切に把握することなく、若い起業家の資金需要を満たすことを優先した都会のスキームをセオリー通りに持ち込んでいたら、福井におけるベンチャー支援はもしかしたら打ち上げ花火で終わっていたかもしれない。

行政が求める短期スパンで結果を出すのは難しい

③ 大風呂敷を広げなかった

地方県でベンチャー支援に取り組もうとする場合、まずは地元の利害関係者が一堂に会してコンソーシアムを組むところからスタートしがちだが、2017年当時の福井県では、コンソーシアムを組むどころか、関心を持ってくれる人を探すことの方が困難な状況であった。周りから注目されることもないので、大風呂敷を広げるタイミングもない。必然的にスモールスタートすることになった。

行政の事業は、得てして短期スパンで結果を求められがちだ。しかし、地域のボトルネックを解消するべく手探りで事業を組み立てていくには、ある程度の時間がかかる。失敗と挑戦を繰り返さない限りは、最善の策は見いだせない。最初の段階から大きな期待を背負わせられなかったことで、状況に応じた施策を柔軟に実施することができた。

県政が刷新されるタイミングもマッチした。試行錯誤を繰り返し、ようやく事業が軌道に乗り始めた3年目の2019年4月に、イノベーション施策に理解のある杉本知事が誕生。県内発ベンチャーを応援するムードが立ち上がり、適当な時機に弾みがついた。