私の時はもっと大変だったのに……

悩んだ末に私は、自分らしいキャリアを求めて「起業」の道を選択。1歳児の育児をしながら鬼気迫る勢いで勉強をし、社会保険労務士試験に合格した。睡眠時間を極端に削ってハードなスケジュールで試験に挑んだが、「絶対にあきらめるものか」と強い気持ちを支えたのは、出産前後の苦い経験だった。

しかし10年たった今ではどうだろう。育児休暇を経て職場復帰することは、女性のごく当たり前の権利として認識されている。当時の私みたいに、赤ん坊を抱えながら必死で自分のキャリアを模索している女性に出会うことは少なくなった。

正直言うと私も、苦労なく育休復帰をしている女性を見ると、「私の時はもっと大変だったのに」と複雑な感情を抱くことがある。たしかに「女性の働く当たり前」は時代とともに急速に変化している。しかし、その時代を生きていた女性は、いまだに当時の価値観を引きずっているのだ。

なにも一人で抱え込む必要なんてない

私はS社長に対して、「これは女性同士の個人的な感情のもつれだけが原因ではないはず。このまま放置しておいては、人材の損失やモチベーションの低下など、職場の生産性の低下を招きかねませんよ。双方のギャップを埋めていけるよう、職場内で話し合いの機会を設けたらどうですか」と助言したところ、S社長は考え込んでしまった。

S社長の気持ちはよくわかる。「下手に関わったら、かえって状態が悪くなるのでは?」と心配なのだろう。しかも不機嫌な女性たちの間に入っていくなんて、とても憂鬱なことだ。気乗りしないのも無理はない。

しかし、何もS社長が問題を一人で抱え込む必要はない。労働局の総合労働相談員や、お付き合いのある社会保険労務士や弁護士など、専門知識のある中立的な第三者に介入してもらうのも方法の一つだ。

双方の言い分を聞き、歩み寄りをうながすところまで、中立的な第三者に援助してもらう。話し合いの土台が作られたところで、職場として関わっていく。和解するきっかけの場を職場として設けることが大切なのだ。

歩み寄りの先にあるものは

今回のケースでは、私が中立的な第三者として介入することになった。

Aさんの先輩女性たちの言い分を聞くとやはり、「若い女性が職場の雑用を担うのは当たり前」という先入観があるようだった。最初は、「生意気だ!」と怒っていた先輩女性たちだったが、今の若い世代の考え方を説明し、Aさんが入社以来ずっと悩んでいた事実を伝えたところ、「そんな風に思っていたとは知らなかった」と態度を和らげた。

一方で、そんな先輩女性たちの様子をAさんに伝えたところ、最初は、「もう別にどうでもいいですから」と拒絶していたAさんだったが、職場の仕組みや時代の変遷などを説明していくうちに、「会社の事情とか先輩の気持ちとか、今はじめてわかった」と理解を示しはじめた。

私は、Aさんと先輩女性たちが互いに歩み寄る意志があることを確認。その旨をS社長に伝えたところ、S社長は思い切って職場内で話し合いの場を設けたそうだ。私はその場に同席してはいないが、後日S社長からその時の話を詳しくうかがった。