少しでも興味がありそうなら「試飲」を勧める

「長く働いているので、顔なじみのお客さまもいらっしゃいます。また、初めてのお客さまが、コーヒー豆の前で悩まれている様子がみえれば、テイスティングのカップをもって、『いかがですか?』とお声がけするようにしています。いつもの方も、はじめての方も、どちらも大事なお客さまですから」

陳列棚を見ている客に試飲をすすめることは、スタバではよくあるという。だが筆者も、同行した編集者も、特別なキャンペーンを除けば、店頭で試飲をすすめられた経験はない。苫小牧店では、少しでも興味がありそうなら、スタッフがお客に近付いて試飲をすすめる。ベテランの2人だけでなく、その意識が店全体に行き渡っているように感じられた。

スターバックス コーヒー イオンモール苫小牧店。外観からは特に変わったところは見受けられない。

20人いるスタッフの半数が勤務歴2年未満

取材当時の店長・野田なつみさん(8月1日付で異動)は31歳。「苫小牧店に赴任して、店舗スタッフのスキルの高さに驚きました」と明かす。同店のスタッフは現在20人。その半数が勤務歴2年未満で、ベテランは山田さんと鈴木さんだけだ。それでも2人を中心に接客レベルが維持されてきた。その新人育成のキーワードは“横から目線”だ。

「もし新人さんが、『私はコーヒーにあまりくわしくなくて』と話せば、『そのままの姿勢で、お客さまと向き合えばいいのよ』と伝えます。豆の知識などをお伝えするより、『このコーヒーはミルクを入れたら、すごくおいしかったです』と自分の言葉で説明したほうが、お客さまも耳を傾けてくださると思うからです」(山田さん)

来店客はコーヒー通ばかりではない。もちろん知識はあったほうがいいが、それよりも「ありのまま」の等身大の接客のほうが、お客との距離が近づく。それは若いスタッフの自信にもなるはずだ。商品を選ぶのはあくまでお客であり、スタッフはその背中をそっと押すだけ。いつしか、「この街のコーヒーコンシェルジュになる」が店の合言葉となった。