原動力となったのは、社員ではなくアルバイト

なぜ苫小牧の店が「日本一のスタバ」になったのか。その原動力となったのが、山田奈津子さん(55歳)と鈴木美左子さん(52歳)という、パートナー(同社は全従業員をこう呼ぶ)の存在だ。ともに10年以上同店に勤めている。社員ではなく、アルバイト。おふたりの言葉を借りれば「主婦のパート」という働き方である。

ブラックエプロンをもつ山田奈津子さん。スタバで働くまでコーヒーは飲めなかった。

山田さんは7年前、「ブラックエプロン」の保持者となった。店舗スタッフの制服は緑色の「グリーンエプロン」だが、年に1度、コーヒーに関する幅広い知識、コーヒー豆の特徴などを問う社内試験に合格したスタッフはブラックエプロンの着用を許される。いまでは人数も増えたが、当時の合格率7~8%。特にアルバイトの保持者は希少だった。しかし山田さんはスタバで働くまで、「コーヒーを飲めなかった」という。

「ずっとコーヒーは苦手でした。気軽な気持ちで働きはじめたので、こんなに長く働くことになるとは。商品知識が増えるにつれて、コーヒーにも興味をもつようになりました。ブラックエプロンの試験を受けたのも、まわりに強く勧められたからで、『この店を引っ張ろう』といった気持ちはなかったんです」

「聞かれたことに答えるだけ」

それでも「9年連続日本一」という実績は並大抵ではない。売り方のコツを聞くと「聞かれたことに答えるようにしています」と教えてくれた。

「お客さまの気持ちに寄り添ってきました。コーヒーに詳しくない方なら、豆の種類やローストの強弱ではなく、味の好みや飲む時間帯を聞いて、一緒に選びます。一方で、最初から好みが決まっている方は、ご本人がすぐに選ばれます。そういう時は、口出しはしません」

もうひとりのベテランである鈴木さんは、苫小牧店のオープン当初からのスタッフだ。「もともとコーヒー好きで、スタバが日本に来る前から、お土産で豆をもらって、飲んでいた」と言う。取材時、年配の常連客が来店すると、町内会の集まりのように会話に花を咲かせていた。そしてレジ前に人が並びはじめると、すっと会話を切り上げて、接客対応に移る。切り替えは自然で、常連客も店を邪魔しないように気遣いがあるようだった。