薬物裁判には「裁判長」より怖い存在がいる

しかし、昔もいまも変わらないことがある。証人として出廷したり、傍聴席の最前列でわが子を見守ったりする親(や親族)の愛情だ。

事件を起こしたことで学校を退学させられようと、会社を解雇処分になろうと、多くの親は子をかばい、自分が罪を犯したかのように謝罪する。そして、本来は悪い人間ではないと訴え、再発防止のために子どもを監督することを誓う。

初犯者だけではなく、何度も同じような犯罪を繰り返す子どもに対しても、同じことをする。もちろん親に見放された被告人もいるけれど、被告人が40歳以下の独身者で、法廷に親族がひとりもいないケースは少ないと思う。

被告人にとってありがたい存在の親は、とにかく子どもを守ろうとする。「今後は自分が責任を持って、息子のことを監視します」と言ったところで、そう簡単にできるはずはないのだが、心の底からそれを誓う。意地悪な検察官から「どうやって守るんですか」と突っ込まれても、「わかりません。でも、どうやってでも守るんです」と答えるのが親なのだ。

子を守ろうとする親の本能は、薬物関係の裁判だけではなく、ごく普通の日常生活で日頃から発揮されている。

その典型が恋愛である。わが子の幸せを願う親は、どんな人と付き合っているかヤキモキし、ときには口を出し、鬱陶しがられる。結婚は当人同士が納得して相手を決めれば良く、親が決めるものではない。

家柄が釣り合わない、勤務先が一流企業じゃない、学歴が低い、年収が少ないなど、ブツブツ言われたとしても、最終的には自分たちで決めること。執拗にそれを言えば、子どもに嫌われてしまう。それは親もわかっているので、よほどのことがなければ、渋々であっても認めざるを得ないだろう。引き下がる理由もちゃんとある。「(相手には不満だが)わが子が幸せなら仕方がない」である。

音楽フェスで大麻を吸った20代会社員カップルの末路

しかし、引き下がらないこともある。それは「よほどのこと」だと親が思ったケースで、そうなると親は逆にガンガン介入してくる。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/egon69)

薬物を含む犯罪行為はその最たるものだろう。ここに紹介する事例は、3年ほど前に傍聴した大麻などの所持や使用で捕まったカップルの裁判だ。

事件はシンプルだった。交際期間2年、同棲1年の20代カップル(どちらも会社員)が音楽フェスで大麻を吸い、脱法ハーブを所持していたことから捕まった。部屋にもたくさんあり、売りさばいて稼ごうとしたのではないかという疑いも持たれたが、それは頑強に否認。ふたりは結婚を前提に付き合っているというだけあって、被告人質問でもかばい合うような発言が目立った。