中国国内で消耗戦をしている場合ではない

中国は、「規模の経済による競争力強化で世界進出」というのは、鉄道車両業界で経験済みなのです。EV化・自動運転化・スマート化などへの対応によって、次世代自動車産業の開発コストはこれまでとは桁違いなものになってきています。特に、車載OSから、ハードとしてのクルマ、ソフトとしてのサービスまで一気通貫で覇権を握ろうとするなら、中国国内で消耗戦をしている場合でないのは明白でしょう。

すでに戦略提携に至っている第一汽車・東風汽車・長安汽車の合併構想には、中国中車(CRRC)の設立に際して中国が採用した戦略が垣間見えます。「アポロ」パートナーでもあるこれら3社の世界の自動車生産台数は、年間1000万台を超えると言われ、現時点で世界第3位のシェアを持つことにもなります。これら3社は、「ナショナルチーム」として、EV・AI・自動運転といった最先端分野の研究・開発力を高めると同時に、海外展開を加速し、「中国ブランド」の国際化を推進するとしています。

自動車産業の戦いは、フォルクスワーゲン、トヨタ、GM、ルノー・日産・三菱連合が販売台数で「1000万台クラブ」のメンバーとなる一方、それら以外の自動車メーカーは離されてきている状況です。

中国の巨大自動車メーカーの誕生が業界再編の起爆剤に

中国政府が「中国ブランド」の自動車先進国への輸出を目標に掲げるなかで、それぞれ合弁を組んだり提携をしたりしている外国資本の自動車メーカー等との利害調整さえできれば、「最大手3社の合併」は現実的なシナリオとして想定しておくのが妥当ではないでしょうか。速度の経済とともに規模の経済もさらに向上させて、メガコンペティションに備えておこうという中国の大戦略です。

鉄道車両製造業界では、中国中車の誕生に伴う再編も起こっています。2017年9月、もともと競合関係にあったドイツのシーメンスとフランスのアルストムの鉄道部門が経営統合される合意がなされました。これは、中国中車の国際攻勢に対抗するための策にほかなりません。次世代自動車産業においても、中国の巨大自動車メーカーの誕生が起爆剤になって、提携関係の再構築や業界再編が起こる可能性があると考えることは合理的だと思われます。

筆者は、本章の冒頭で、「『中国車は品質に劣る』、日本や欧米の消費者にそのような見方があるのは確実なことである」と述べました。しかし、自動車産業が次世代へ向かい、そして中国が自動車「強国」になろうとするなか、「中国ブランド」に対する市場評価はおのずと変わっていくのではないでしょうか。インドネシア・タイ・マレーシアなどASEAN市場での中国車の躍進がすでに顕在化する一方で、日米欧という自動車先進国市場への「中国ブランド」の浸透も現実味を帯びてくるでしょう。