自動車の運転を規制する国際条約は2つ

自動車を購入する消費者のレベルで言えば、政府は、NEVへの買い替えを促すような補助金などの政策によっても、脱ガソリン車を推し進めています。中国は、まさに、CASE(コネクティビティ・自動運転化・シェアリング&サービス化・EV化)をいち早く政策に取り込むことで、次世代自動車産業への影響力を確保しようとしているのです。

ここで、自動運転に関する国際的な法整備について、説明を加えておきます。自動車の運転を規制する道路交通に関する条約は二つ存在します。一つは1949年に署名されたジュネーブ道路交通条約。日・米・英・仏・蘭などが署名・批准しています。

もう一つは1968年に署名されたウィーン道路交通条約です。主に欧州の国家が署名・批准し、日米は含まれていません。これら条約には、共通して、“自動車の運転にはドライバーがいなければならない”“自動車の運転はドライバーによるコントロールがなされなければならない”と規定されています。この規定が、自動運転が国際法上認められていなかった法的な根拠です。

中国は2つとも「署名・批准」をしていない

自動運転社会の機運が高まるなか、条件付きながら自動運転が法的に可能となるような、これら条約の改正作業が行われました。ウィーン条約は改正が採択・批准され、2016年に施行に至っています。

しかし、ジュネーブ条約については、同様の改正が採択されたものの、批准国が多数に至らず施行されないままとなっています。日米が加盟するジュネーブ条約の改正作業が滞ると同時に、国際法上のズレも発生している状況です。

中国は、両方の条約ともに署名・批准をしていません。つまり、少なくとも国際法上は、中国は自動運転に関する規制を強制されることはないのです。

見方によれば、自動車先進国の日米欧が法整備で時間を費やし、また国内法でなんとか工夫をしながら自動運転の準備を進めるあいだに、中国は、ある意味フリーハンドで、自動運転走行やその実証実験を“国を挙げて”実施できるのです。このことも、中国の自動車産業政策にとってプラスとなる側面はあるはずです。

中国の最大手3社が合併し、世界最大級のメーカーに?

中国では、EVメーカーが乱立しているのとは裏腹に、自動車メーカー“ビッグ5”のうち第一汽車・東風汽車・長安汽車の最大手3社が合併し、中国政府をオーナーとする世界最大級の自動車メーカーが誕生するという可能性もささやかれています。もし実現すれば、国内事業者同士の競争による資源の浪費を避けることができ、中国自動車産業の国際化を加速できるというわけです。

実は、このような国家競争戦略には先例があります。2015年、中国の二大鉄道車両メーカーであった中国南車と中国北車の合併によって、「中国中車(CRRC)」が設立されました。これは、欧米鉄道ビッグ3を上回る超巨大鉄道車両メーカーの誕生を意味しました。合併の効果によって、中国中車の価格競争力が高まるとともに、“オールチャイナ”を前面に出した営業攻勢もされ、鉄道車両製造分野での中国の国際的なプレゼンスが格段に向上したのです。実際に、合併による中国中車の誕生後は、“オールチャイナ”として東南アジアや南米などで日米欧大手との受注競争に挑んでいます。