【松尾】本来は、社会保障費を削減するのではなくて、景気対策として社会保障分野にも投資するのが、左派本流の経済政策です。本当に財政出動をすべき分野はたくさんあります。たとえば、子育て支援がその最たるものでしょう。それで子どもが生まれたほうが、将来税金を納めてくれるんだから、財政的にもいいに決まっています。
だいたい、「国の資産をつくる」と言うんだったら、一番の財産は国民じゃないですか。子どもが増えたり国民が豊かになっていけば税収だって増えますよ。少子高齢化を心配するんだったら、低すぎる保育士さんの給料も上げなければいけませんし、保育所も増やす必要があるでしょう。介護についても切迫していますから、たくさんお金をかけて取り組むべきです。奨学金など借金を抱えて大変な学生さんもたくさんいますし、大学の学費を無償にするとか、給付型の奨学金を充実させることも必要な政策だと思います。
保育所を増やせば、良い循環が生まれるはず
【北田】安倍政権も2017年の選挙前に、急に教育の無償化を言いはじめましたが、その財源は消費増税というのだから、まったく意味不明ですよね。松尾さんはこういう提言を「経済政策としても効果的なんだ」とおっしゃっているのが重要なところだと思います。「人への投資」とか言うと、中には「人を投資対象として見るのか!」とか言って怒りだす人もいるんですが、まったくそういうことじゃない。
【松尾】このかん問題になってきたのは、ものをつくるための力(供給能力)は十分にあるのに、人びとがものを買う力が不足している(需要が不足している)ということなので、もっとものを買う力を増やしていかなければいけません。政府が福祉や介護、子育て支援や教育などにお金を使って、そこで雇われる人の数が増えたり、給料が上がったりすれば、人びとのものを買う力は強まります。あるいは保育所をつくろうとすれば、資材をたくさん使いますし、サービスを供給するためにはいろいろなものを買うでしょう。
こうした分野に投資すれば、人びとのものを買う力は強まっていきます。そうすると、ますます生産が増え、ものが売れるようになり、雇用がまた増えていく、そういう良い循環が生まれていくはずなんですよ。
保育士・ライター・コラムニスト
イギリス・ブライトン在住の保育士・ライター・コラムニスト。著書に『ヨーロッパ・コーリング』『THIS IS JAPAN』『子どもたちの階級闘争』『労働者階級の反乱』など、共著に『保育園を呼ぶ声が聞こえる』などがある。
松尾 匡(まつお・ただす)
立命館大学経済学部 教授
1964年石川県生まれ。立命館大学経済学部教授。専門は理論経済学。著書に『商人道ノスヽメ』『不況は人災です!』『この経済政策が民主主義を救う』など、共著に『これからのマルクス経済学入門』『マルクスの使いみち』などがある。
北田暁大(きただ・あきひろ)
東京大学大学院情報学環 教授
1971年神奈川県生まれ。東京大学大学院情報学環教授。専門は社会学。著書に『広告の誕生』『広告都市・東京』『責任と正義』『嗤う日本の「ナショナリズム」』など、共著に『リベラル再起動のために』『現代ニッポン論壇事情』などがある。