1日の中で、あるいは日によって、店名が変わる飲食店――。不況のせいか、定休日や営業時間外の店舗を、違うジャンルの店が借り受けて営業する「二毛作店」が登場して久しい。なかでも注目すべきは、十分人気のある実力店までが参入してきている点だ。
たとえば今年2月、銀座界隈にオープンした「ポンデュガール エクスプレス」。大人気のワイン居酒屋を経営する安生浩さんが出した店で、夜はワイン居酒屋だが昼はカレー専門店「ポールのカレー」になる。ランチにカレーを出す店は多いが、店名まで変えて気合を入れているのは珍しい。
「片手間でやっていると思われるのは嫌だったんです。実はいずれカレー店を独立させるつもりで、そのお試しの意味合いが強かった。実際、数カ月やってみてカレー専門店には何が必要なのか見えてきました。若い人のアルコール離れも進む中、昼に国民的人気食のカレーを出すことで経営的に安定する側面もありますね」
また、恵比寿の高級寿司店「鮨 小野」は、主人が休みを取る日曜日に「鮨 空(そら)」と屋号が変わる。仕入れや魚の仕込み方は同じだが、握るのは店の2番手で、値段も3割ほど安く設定。主人の小野淳平さん曰く「1年半ほど前、スタッフも育ってきたので定休日をなくそうと思った。でも、自分の名前の店なのに自分がいないのはおかしい。ならばと店名を変えたんです。スタッフのやる気にもつながり、結果的に月の収入も増えました。『鮨 空』のファンが増えれば、週2回の営業にしても面白いですし、新たな店を構えてもいいと思う」。
いずれも、店舗スペースを有効活用して利益を上げるだけでなく、将来の展開を見据えた実験店としての役割を果たしている。なんだか、ちょっぴり明るい話題ではないか。
(撮影=岡山寛)