「少量を外食のときだけ」に転換できるか

高齢者の場合、飲み過ぎから失禁、脱糞をしてしまうことも少なくないそうだ。わが身に照らし合わせれば、これは転倒などよりずっと怖い。が、転倒をきっかけに寝たきりになってしまうというのはよく聞くことで、これだって十分に怖い。

シニア女性誌の編集長をしていた関係で、80代、90代の元気な女性筆者とお付き合いをさせていただいていた。

共通するのは、好奇心の強さ、優しさだと感じていた。それがある人が全員長寿というわけにはいかないだろうが、健康長寿の人には好奇心と優しさがあると思ったものだ。

そのような筆者たちと食事をすることも時々あったが、何人かの方はアルコールを口にされていた。「梅酒を一杯だけ」とか「赤ワインをほんの少し」とか、ほんの少量だった。多分それも、誰かと外食するときだけで、家で飲んでいるということはなかったと思う。一人暮らしの方も多かった。

80代、90代まで自分が生きるかどうか、さっぱりわからないが、自分が大先輩方のように「少量を外食のときだけ」に転換できるか、である。飲めるうちは飲ませろ、と開き直る気はない。が、未来の私に自信が持てない。

1合ほどを30分かけて「うまい」

身近な例としてわが父がいて、これもアルコール好きだったが、同居する家族からの強いススメで最近、卒酒をしている。

だが、これが未練タラタラで、スキあらば飲みたい感じが丸わかりなのだ。いかん、よくない血が流れている。

10月15日の朝日新聞に、再び「高齢者とアルコール」に関する投稿が載った。病気で飲めなくなっていた父との最後の飲酒の思い出だった。

こっそり近所の店に連れていった。父は1合ほどを30分かけて「うまい」と言って飲んだが、半年もしないで亡くなった。もっと飲ませてやればと泣いた。亡くなったのは82歳だという。

亡くなれば、思い出になることはわかる。だが、なかなか死ねない時代だ。

2016年の日本人女性の平均寿命は女性87.14歳。さあ、どうする私?

矢部万紀子(やべ・まきこ)
コラムニスト
1961年生まれ。83年、朝日新聞社に入社。宇都宮支局、学芸部を経て、週刊誌「アエラ」の創刊メンバーに。その後、経済部、「週刊朝日」などで記者をし、「週刊朝日」副編集長、「アエラ」編集長代理、書籍編集部長などをつとめる。「週刊朝日」時代に担当したコラムが松本人志著『遺書』『松本』となり、ミリオンセラーになる。2011年4月、いきいき株式会社(現「株式会社ハルメク」)に入社、同年6月から2017年7月まで、50代からの女性のための月刊生活情報誌「いきいき」(現「ハルメク」)編集長。
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