「何となく残っている文書」が盲点

法律で保存が義務づけられている文書は、ルールに従って保存すればいい。逆に難しいのは、日々飛び交う内部メモや電子メールだ。これらの文書は意識的には保存されていないかもしれないが、多くの会社でサーバーに自動保存されていて、訴訟等の際の証拠になりうる。企業としてどう取り扱うのが適切なのか。国際法務に詳しい戸田謙太郎弁護士は、米国企業の対応について次のように解説する。

「アメリカの民事訴訟では、相手方から文書提出要求があれば、個人のメモや電子メールも含めて関連するものをすべて提出しなければなりません。『見つからなかった』と隠ぺいすれば制裁もあります」

ただ、メモや電子メールをすべて保存して必要なものを探し出すのはコストがかかるし、そもそも残されている文書が自社に有利な資料ばかりとは限らない。それを踏まえて現実的な対応をしている企業が多いという。

「アメリカでは、一定期間経過したメールをサーバーから自動削除している企業が多いです。訴訟の可能性を認識した後は自動削除を停止する必要がありますが、すでに削除したものは不問。こうした仕組みで、効率的な文書管理と訴訟対策を両立させています」

メールの送受信から3カ月程度、短い会社だと、2週間でメールを削除する会社もあるようだ。

日本にも文書開示の制度はあるが、アメリカに比べると緩やか。自社に不利な文書は開示せずに済むケースが多いため「とりあえず何でも残しておけ」というスタンスでメールを管理している企業が多い。しかし、海外と取引がある企業は要注意だ。

「国際仲裁における文書開示のルールは米国のルールに近い。海外企業とトラブルになったときに日本国内と同じ感覚でいると、痛い目に遭う危険性があります」

(答えていただいた人=弁護士 戸田謙太郎 図版作成=大橋昭一)
【関連記事】
「不祥事を起こさない会社」はどんな会社か?
"酔って女性社員の手を握る"はセクハラ?
なぜ経理はどうでもいいような細かいことを聞いてくるのか
東芝だけじゃない!「不適切会計」上場54社の社名公開
新入社員に研修で叩き込んでおきたい法律