金正恩の言葉にあるように、北朝鮮国内には反体制組織が存在する。それぞれが小規模であるうえ、組織同士の横のつながりがないため、大規模な抗議集会を起こすことができる状態にはない。今後、内部崩壊を加速させるためには、横のつながりを作り、北朝鮮国内全体で反体制運動を活発化させる必要がある。
反体制運動を活発化させるには、どのような手段があるのだろうか。いくつか具体的な方法を考えてみよう。
北朝鮮には日本のようなSNSが存在しないため、自由に意見を交換したり、国内の情報をタイムリーに入手したりすることは不可能で、情報は口コミで広がっているのが実情だ。
そこで、原始的な手法だが、ビラを大量に散布することで同調する人々を集め、結束させるのだ。しかし北朝鮮では、決起を呼びかけるビラを作ろうにも、ビラを大量に作る手段がない。これまでにもビラが散布されたことはあるのだが、手書きだったので作ることができる量にも限界があった。
韓国の民間団体がバルーンを使って、金正恩を非難するビラを散布している。このビラも一定の効果はあると思われるが、北朝鮮中部から北部への散布が難しいうえ、まいても北朝鮮国内で具体的な動きがないところを見ると、これだけでは不十分なのだろう。国外より国内で作られたビラのほうが、説得力があるのかもしれない。
コピー機がない、紙がない、インクもない
ビラを大量に作れないのは、電力事情が悪い北朝鮮にはコピー機が少ないことと、たとえコピー機があっても質の高い紙が不足していることが理由だ。平壌の労働党庁舎にはコピー機があるかもしれないが、地方都市にはほとんどないだろう。
北朝鮮の紙不足は深刻で、地方ではタバコを巻くのに朝鮮労働党機関紙である「労働新聞」を使うほどだ。つまり「労働新聞」が唯一マシな紙なのだ。北朝鮮では、日本ではお目にかかれないような再生紙が使われている。筆者は北朝鮮で作成された文書を多く見てきたが、紙質は極めて悪かった。昔の日本で使われていた藁半紙(わらばんし)よりも質が悪い。
ビラを作るにあたっては、手動の印刷機を使うことになる。しかしいざ印刷機が確保できても、紙とインクが不足している。このような環境でビラを作るためには、紙とインクを中国から持ち込む必要がある。これらの物資は正規のルートで持ち込むことはできないので、例えば、密輸ルートに乗せて持ち込むという方法がある。
警察にバレないようにするためには、印刷機はコンパクトでなければならない。そこで最適なのが、1970年代に日本で流行した個人向け小型印刷機(プリントゴッコのようなもの)だ。動力源が単3電池2本で済むため、電力不足でも問題なく使用できる。