両輪の腐敗が進み、治安が乱れる
軍と秘密警察の弱体化は、食糧不足に起因している。軍の将校や秘密警察の要員だからといって、1980年代のように優先的に配給を受け取ることができなくなったからだ。
北朝鮮では10年以上前に配給制度自体が崩壊しているので、平壌に住む特権階層以外の国民は商売などで自活せざるを得なくなっている。軍の将校は食糧の横領、秘密警察や警察(人民保安省)は、国民や犯罪組織からワイロを受け取って生活している。
そして、国民の監視が不十分になったことで犯罪が急増している。これは秘密警察だけでなく、警察の機能も低下していることを意味している。しかも、後で触れるように数十人規模の犯罪組織が生まれるような状態にまでなっている。反体制組織の規模が広がる素地ができつつあるというわけだ。
北朝鮮に反体制組織が存在していることは、金正恩自身も認識している。これを示すものとして、2012年11月に金正恩が全国の分駐所(派出所)所長会議出席者と人民保安省(警察)全体に送った訓示がある。
「革命の首脳部を狙う敵の卑劣な策動が心配される情勢の要求に合わせ、すべての人民保安事業を革命の首脳部死守戦に向かわせるべきだ」
「動乱を起こそうと悪らつに策動する不純敵対分子、内に刀を隠して時を待つ者などを徹底して探し出し、容赦なく踏みつぶしてしまわなければならない」
つまり、12年の時点で金正恩は国内の統制について不安を感じていたのだ。金正恩には側近からの「耳当たりのよい報告」しか届いていないはずなのだが、もはや看過できない状態になったのだろう。
ヤクザ、学生集団……犯罪組織が跋扈する
大都市では、監視と取り締まりが行われているにもかかわらず、数十人で構成される犯罪組織や日本でいうヤクザが存在しており、闇市場での生活必需品の密売や恐喝などを行っている。1990年代は、このような大きな組織は存在せず、組織といってもせいぜい数人程度で恐喝や窃盗を行う程度だった。
近年は青少年で構成された犯罪組織による強盗、窃盗、強姦などの不法行為も急増している。例えば2011年には、3年間にわたり強盗を繰り返し、7人を殺害した10代の男女学生の犯行グループ15人が検挙されている。この規模の犯罪組織が存在するということは、それだけ警察が機能していないということだ。これがこのまま反体制組織に転じても、警察にすぐに摘発する能力はないといえる。