「自宅介護は無理!」の思い込みをまず捨てる

「とはいえ、在宅介護は大変なのでは?」という声も聞こえてきそうです。私もそう思っていました。現在、国は地域包括ケアシステムの推進を提唱しており、「住まい」「医療」「介護」「予防」「生活支援」などを、住み慣れた地域で滞りなく行える環境を整備中です。そんなことは重々承知だったはずの私でさえ、「自宅介護は病院や施設より大変で、費用も非常に高くつく」と思い込んでいたのです。

蓋を開けてみると、それは杞憂に終わりました。母が入院していた総合病院では、地域で往診可能な在宅医や関連諸機関を紹介してくれ、退院後のサポートも充実していました。在宅医には、がんの緩和ケアができ、看取り経験が豊富で、24時間何時でも必要なときは自宅に往診してくれる人を希望しましたが、素晴らしい先生と巡り合うこともできました。

コスト面での不安も払しょく。母は医療用ベッドや点滴用具、酸素吸入器などが必要でしたが、リースしても、それぞれ月に数百円〜1000円程度。部屋に設置するポータブルトイレだけは衛生的な理由から買い取りでしたが、これも利用者負担は原則として1割のみ(介護保険法改正により、15年8月以降、一定以上の所得者は2割)。介護保険制度の恩恵とともに、介護コストがかさむ理由も実感しました。

現在は、特養や介護付き有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅など、多様な選択肢があります。在宅介護だけが素晴らしいと推奨するつもりはありません。私の場合は、家族やスタッフ、医師や看護師の方たちの全面的なサポートがあったからこそ、チームを組み、シフト制を取り入れて深夜の母の苦しみにも寄り添うことができました。また、余命宣告を受けた母の場合は、いわば期間限定の介護です。介護生活が続く期間がわからないケースと違います。一日でも長生きしてほしいと願う家族の心の葛藤もありますが、私の例も参考に在宅介護という選択肢も改めて考えてみてください。

今後も高齢者の介護環境についてはさまざまなチョイスが用意されるべきです。高齢者本人が人生の最期を幸せに締めくくれるよう、そして見守る家族に無理のない、満足のいく介護をできるよう、東京都としても環境整備と情報の周知を推進していきます。

小池百合子(こいけ・ゆりこ)
1952年生まれ。カイロ大学文学部社会学科卒業。テレビ東京『ワールドビジネスサテライト』などでキャスターとして活躍。92年政界に転身し、環境大臣、防衛大臣などを歴任。2016年、東京都知事に就任。
(構成=三浦愛美 撮影=原 貴彦 写真=Getty Images)
【関連記事】
なぜ日本だけが「介護と仕事」で悩むのか
「60代のひきこもり」が増えている
"親ペナルティ"を40歳で負う覚悟はあるか
"寿命が7歳延びる"笑顔のもたらす大効能
日野原先生が"100歳現役"を体現した秘訣