税収増で今年度予算が史上最大規模となったのをいいことに、政府は公務員や大企業の優遇を続けている。「財政が厳しい」というのならば、富裕層への課税を強化すべきだ。経済アナリストの森永卓郎氏は「『国民経済計算』と『全国消費実態調査』を比較すると、約1000兆円の差がある。日本の富裕層は1000兆円の資産を抱え込み、課税逃れをしている」と指摘する。庶民に負担を強いるばかりでいいのか――。

※以下は森永卓郎『森卓77言 超格差社会を生き抜くための経済の見方』(プレジデント社)から抜粋、再構成したものです。

高すぎる「公務員給与」と濡れ手に粟の「法人減税」

2017年度(平成29年度)予算は、史上最大規模の97.5兆円で成立しました。それでも公債依存度は35.3% と、2010年度(平成22年度)の48.0% より大きく下がっています。景気回復と増税で、税収が大幅に増えているからです。しかし私には、政府が税収増をよいことに、やりたい放題をしているようにみえてなりません。最近、行政改革の動きがほとんどみられなくなってしまったからです。

成功したかどうかは別にして、民主党政権のときには事業仕分けを行って、行政の無駄を徹底的に排除しようとしました。安倍政権にしても、第一次内閣のときには、行革に熱心に取り組んでいました。それがいまや、完全に公務員天国になり果てています。正式な集計は出ていませんが、シンクタンクの推計によると、2015年冬の国家公務員の賞与は、平均で約72万円でした。一方、民間の平均は約37万円で、国家公務員が民間の2倍の賞与をもらっているのです。ちなみに労務行政研究所が調べた東証一部上場企業の平均が73万円だったので、国家公務員は、上場企業並みの賞与をもらっていることになります。国家公務員の処遇は、民間準拠ではなく、勝ち組準拠になっているのです。

高すぎる国家公務員給与を削減しようという動きは、東日本大震災の直後に表面化しました。復興財源に充てるために、2012年から国家公務員の給与が8%カットされたのです。ただ、それが続いたのは、たった2年間だけでした。復興事業は終わっていないし、国民が支払う復興特別所得税は25年間にわたって継続しています。これをお手盛りと言わずに何と言うのでしょうか。

もう一人、濡れ手に粟となっているのが、大企業です。安倍政権は、法人税の実効税率を2016年度から29.97%へと引き下げました。2017 年度からの予定を1年前倒ししたのです。第二次安倍政権が発足する直前の2011 年度の法人税(地方税を含む)の実効税率は40.69%でした。それが毎年引き下げられ、5年間で10.72%も引き下げられることになりました。

なぜ「財政が厳しい」と言いながら、安倍政権は法人減税を進めるのでしょうか。財務省のホームページによると、アメリカの法人税の実効税率は、日本より10.78ポイントも高いのです。もし、本当に法人税率が高いと企業が海外に流出するのなら、アメリカの産業は空洞化しているはずですが、そんな事実はまったくないのです。

法人税率の度重なる引き下げで、法人は4兆2880億円もの減税です。政府予算案で、基礎的財政収支の赤字が10.8兆円もあるのですから、まずそれを減らすことを考えるべきでしょう。