なぜ妻は「捕まってホッとした」と証言したのか
結果、妻は逮捕されたわけだが、もし刑事に声をかけなければ、真実を打ち明けないまま、夫婦の“忖度合戦”はどこまでも継続されていただろう。だからこそ被告人は、「捕まってホッとした」と証言したのだ。
結婚する前から本音でぶつかりあうことを避けてきた結果、トラブルに正面から向き合うことができず、夫婦関係に波風を立てないことが目的となる。ふたりの取った行動は、いつかは破綻すると知りながら、力を合わせて苦難に立ち向かうことを最初からあきらめた態度にも思えた。
相手の気持ちを推し量っているうちに、現実から目をそらすことに慣れてしまう。こうしたことは我々の身の回りでしょっちゅう起きていることでもあるだろう。いましている忖度は客観的に見ておかしくないか、立ち止まって考える余裕を持ちたい。
結局、夫は「まだ無職です。条件が合わなくて……」
ちなみに、被告人の夫はなぜこんなことになったのか、最後までわかっていないようだった。いまどうしているかと裁判長に尋ねられ、次のように答えたのだ。
「まだ無職です。なかなか条件に合う仕事がなくて……」
あんたがいまやるべきことは、贅沢言わずに職を見つけて、奥さんにいらぬ忖度をさせない環境を整えることなんだよ!
執行猶予付き判決を受けた妻が、本格的に風俗店で働き始める日は遠くない。そう思った傍聴人は筆者だけではなかったに違いない。