解雇されたが「妻を不安にさせたくない」という忖度

しかし、転換期が訪れる。

夫がリストラされてしまったのだ。そして、妻を不安にさせたくなかった夫はそのことを言いそびれてしまう。自分にはそれなりのキャリアもあるし、間を置かず転職先が決まるだろう。妻には仕事が決まってから事情を説明すればいい。そう考えた夫は、何食わぬ顔でこれまでどおりの生活を続けることにした。これが夫婦間の最初の忖度だ。

朝はいつもと同じ時間に家を出て職探し。夜は定時退社を装って早めに帰宅することもあれば、残業した体で遅く帰ることもある。ときにはひとりで一杯やって、同僚と楽しく過ごしたフリもした。給料が振り込まれないことについては経理上の混乱など適当にごまかしていた。

写真はイメージです

だが、被告人は初期の段階で夫が職を失ったことに気づいていた。そして思う。あの人が隠そうとしていることを自分の方から暴き立てるわけにはいかない。そんなことをしたら夫のプライドは傷ついてしまうだろう。転職活動がうまくいくのを待とうと決め、気づいていない演技をするのだ。これが夫婦間の2つめの忖度になる。

仕事はなかなか決まらなかった。給料が入らないから、貯金を切り崩して生活費に当てるしかないが、それに関して一言も尋ねてこないのをみて、夫は妻が失業のことを察していると確信する。普通なら、ここらですべてを打ち明けるべき場面だろう。

忖度の“応酬”の末、美人妻はカラダを売る決意

ところが、そうはならない。夫は妻の気遣いに感謝はするのだが、知らないふりをしてくれているのだから、自分も気づかない演技を続行しようと考えるのである。3つめの忖度だ。

「いってくるよ」と毎朝出かけていく夫。行き先は公園、ハローワーク、安いカフェ。
「いってらっしゃい、気をつけて」笑顔で見送り、ため息をつく妻。

どんどんおかしなことになっていくのを、ふたりとも止められない。偽りの生活が1年に達する頃には、通帳の残高も心もとなくなり、このままでは立ち行かなくなることが目に見えてきた。妻は、夫も精いっぱい頑張っているのだから、ここは自分が内助の功を発揮する番だと決心する。これが4つめの忖度となる。