7月30日、西東京大会の決勝で早稲田実業が敗れた。早実の強打者・清宮幸太郎主将は開幕時、故・小林麻央さんを踏まえて「野球を愛しています」と選手宣誓したことも話題になった。実は高校野球では1982年以来、選手自身がオリジナルの宣誓文を作るようになっている。高校野球の印象的な選手宣誓を振り返ってみよう。
高校野球の東・西東京大会の開会式で、選手宣誓する早稲田実の清宮幸太郎主将=7月8日、神宮球場[代表撮影](写真=時事通信フォト)
清宮幸太郎主将 早稲田実業「宣誓。私たちは野球を愛しています。私たちは野球に出会い、野球に魅せられ、野球によって様々な経験を重ねてこの場所に立っています」――日刊スポーツ 7月8日

熱戦が繰り広げられている、第99回全国高等学校野球選手権大会。東・西東京大会は早稲田実業高校の主将・清宮幸太郎選手の印象的な選手宣誓で幕を開けた。「野球を愛しています」というフレーズは、故・小林麻央さんの最期の言葉から着想を得たという。高校通算最多107本塁打を達成した超高校級のスラッガー・清宮は、表現力も一流だ。清宮は取材に対して次のように語っている。

「好きよりも、愛しているのほうがより気持ちが伝わるじゃないですか。野球がなければ今の自分はない。愛していると同時に、野球に感謝もしています」――AERA dot. 7月21日<早実・清宮幸太郎、最後の夏にかける思いとは>

かつては型通りのものが多かった「選手宣誓」だが、近年はこのように独自の表現を用いたものが増えている。高校野球の印象的な選手宣誓を振り返ってみたい。

オリンピックの「騎士道精神」を「武士道精神」にリプレイス

選手宣誓の起源は古代オリンピックにさかのぼると言われているが、近代オリンピックでは1920年のアントワープ大会から行われている。「我々は……競技規則を守り、騎士道精神にのっとって、祖国の名誉と競技の栄光のために戦う」というものだったという(朝日新聞 2016年7月13日)。ただし、オリンピックの選手宣誓は高校野球と異なり、宣誓する選手が自分で考えるものではなく、大会ごとに作られる細則で定められている。

高校野球では、1929年の第15回大会で慶応商工(東京、現・慶應義塾高等学校)の黒崎数馬主将が「訓示の通り正々堂々戦います」と宣誓したのが最初だった(朝日新聞 2015年8月5日)。その後、戦争が近づいてくると選手宣誓の内容も変化していく。1938年に行われた第24回大会での宣誓は次のようなものだった。

村松幸雄主将 掛川中(静岡、現・掛川西高)「我等ハ武士道ノ精神ニ則リ、正々堂々ト試合シ、誓ッテ中等学校野球ノ精華ヲ発揮センコトヲ期ス」――朝日新聞デジタル 2015年7月21日<16歳、強いられた選手宣誓 第24回大会(1938)>

オリンピックでの「騎士道精神」が「武士道精神」に置き換わっていることがわかる。時代の要請がこのような宣誓を行わせたのだろう。このときは村松主将が読み上げた宣誓文を、出場選手たちが一節ごとに唱和したという。村松主将は後にプロ野球・名古屋(現・中日ドラゴンズ)に入団するが、1944年にグアムで戦死した。